7-18「こんなことを言ったら君は俺を軽蔑するかもしれないけれど。昨晩のことは、本当に記憶がなくて……、君にあんなことをしておいてどの口が言うんだという話だが、その、」(6P)
「伊達に君を見ていないさ。この二か月、誰よりも君を見ている自信がある。俺を舐めないでくれるか?」
(…………う…………っ。)
言われ、ミリアは、更に喉を詰まらせた。
剣幕に慄いたのではない。
エリックにときめいたのでもない。
ミリアの中、急速に蘇るのは昨晩眠りこけているエリックの隣で暇つぶしに読んでいた小説だ。
『伊達に、君を見ていない。この二か月、誰よりも君を見ている自信がある』。 一字一句違わないそれは、まさに──
(昨日読んだ恋愛小説の決め台詞……! 同じ言葉なのに嬉しくない……! 全然嬉しくない……!)
複雑オブ複雑である。
ヒロインの心を射止めるために発した言葉が別の意味合いで降ってきた。昨日一人で悶絶転がり「いつか言われてみたーーーーい!!」と虚空をバシバシ叩いたのに。
(──ちくしょう、他で聞きたかったッ……!)
「──ミリア? なんだよその顔。あまり気を持たせないで欲しいんだけど?」
(甘い声で聞きたかった……っ!! くっそ……!! 作り話のようにはいきませんよねわかります! っわかりますけど、こんなことってある……!?)
と。
理想と現実の間で打ちひしがれるミリアに、エリックは怪訝一色で不機嫌を放つのである。
(──はうッ……!!)
こわい。
本気で怖くはないが迫力が凄い。
しかしそれもわかるのだ。
彼としてはお預けを喰らっている状況だ。
苛つきだしても仕方ない。
(……これは、あれだね? ちゃんと考えた方がいいね? おにーさん、そろそろマジキレしそうだし……!)
青く黒い瞳に睨まれて、ミリアは生命の危機に急速に態度を改め──
「うーん……「あんなこと」・「あんなこと」……」




