7-17「アタるすべてが柔らかい……」(5P)
まどろみに引きずられるように、とろんと現れたハニーブラウンの瞳に息を呑む。
ミリアが起きたのだ。
瞬時に言い訳と謝罪と説明要求が乱立するエリックのその前で、ミリアは、眠気を纏った瞳のまま、ぬったりと体を起こすと
「…………おやよう。」
「────お、おはよう……、あの、ミリア、さん、えーと、俺は」
「おぼえてないの~……? あんなことしてさぁ……」
「あんなこっ」
眉をよせ、ぼや──っと言う彼女に。
エリックは絶句した。
瞬時にイロイロを考え勢いよく身を起こし背筋を伸ばすエリックの前、しかしミリアは覚束ない口調で述べるのである。
「────とりあえず、ねむいの。
ねむいの。わかる?
おかげさまで、ねむい」
「────す! すまなかっ」
「ほら、まだ、ね、ねむいから。おきちゃだめなの、ギル。」
「────ギ……うわ!?」
────ぼふっ!
聞いたことのない名前と、反省と動揺に支配されたその一瞬。
素早く伸びた彼女の腕に捉えられ、頭を抱かれたままベッドに倒れこむエリックに、ミリアのとろんとした声が降る。
「はい、ねようね、ぽんぽん・ね~…………」
ぽん ぽん ぽん……
「…………いや、ミ、」
「は~~~い……、
ね、
まだ~~……
ねんね、
しよう~……
ぽん、
ぽん、
ぽん……
ぽ……」
────すか────っ…………
(────待て)
まるで、子どものように寝かしつけられて。
エリックは言葉も出せずに固まっていた。
修羅場である。
寝ろと言われても眠れるわけもない。
まどろみなど当のとっくに吹っ飛んだし、今彼の頭の中を支配するのは
(あんなこと? あんなことって、あんなこと??? 記憶がない、記憶がない……! なにも、思い出せない……! しかも、ギル? ギルって誰だよ。ねんねしようってなんだ? はっ? そんな相手は調べても出てこなかったが、ギルって誰)
むぎゅっ。
ふにゅり。
すりすり。
ぎゅうーっ……
混乱と、柔らかさ。
(────ちょっと待て! ち・ょ・っ・と・ま・て!)
抱かれた頭。
顔を包み込む「ふにゅりとアタるあたたかなもの」
。
ズボン越しの「内もも」。
鼻腔をくすぐるいい匂い。
アタるすべてがやわらかい…………
(──────地獄だ……!
いや、鍛錬だ!
女を知らないわけじゃない、10代の子どもじゃないんだぞ! しっかりしろ! これしきのことで取り乱してどうする……!)
ノースブルク諸侯同盟 オリオン領・西の端。
ウエストエッジのとあるアパートメントの一室で。
領主「エルヴィス・ディン・オリオン」の不遇は────
ミリアが目覚めるまで続いたのであった。




