7-16「恥ずかしミリアの床事情」(7P)
「──── 一点・集中ッ!!
────ふう────っ!
ちまちまッ! フレイムッ!! ふぉぉおおおおーるっ!!!」
…………しゅぅ……
っぴちちちちちッ……
しゅるるるう…………ぼっ。
「やった! よしっ! 火ぃついた! よしっ!!」
決死の気合いに相反して。
今にも消え入りそうな弱弱しい火花がかまどに着地し、着火したのを目視して、ミリアは力強くガッツポーズをとった。
たかが初等もいいところの火の術であるが、彼女は『ミリア・リリ・マキシマム』。『炎エレメンツ認定試験に全落した女』である。
炎を扱うときは、細心最大の気力が必要なのだ。
──しかし、それさえ過ぎればあとは慣れたもの。
ぼこぼこと沸騰した湯に鶏肉を沈め、他材料を流し入れたら、ことことくつくつ。キャベツが芯までとろけ、ニンジンに櫛が通ればもう少し。少しばかり味を調えて完成だ。
「────ふふふん、おいしそ♡ よしよし、いい感じ♡ さぁーってとっ」
鍋の中、ことこと・くつくつと揺れ動くスープから目を離し、ミリアは大きく踵を返しリビングルームへ。起きてくるであろう彼に、『それなり』を用意すべく、彼女は足早に部屋の中心に躍り出て──
(────あ。)
気づいて止まった。
「────っていうか。
おにーさん、起きるかな……
起きて帰ってくんないと、わたし今晩…………ねるとこ、ないんだけど…………」
────そう。
怒涛の展開に気づかなかったが、ミリアの家には他に寝具がない。
ソファーも一人用の簡素なものだし、カウチなどは存在しない。
体を休ませる場所が他にないのだ。
もしこの後エリックが一晩中眠りこけた場合。
ミリアは一晩、どうしたらいいのだろう?
「……………………」
リビングルームのど真ん中。
そこまで考えていなかったミリアの中、「最悪」が頭の中を駆け巡り────……
「…………え……、床で寝たらいい……?
まあ夏だし一晩ぐらいなら風邪は引かないと思うけど、でも床…………
……固いよね……
……早く起きて帰ってくんないかな、おにーさん……」
もはや、若干迷惑そうに。
困ったトーンで呟いたミリアの本音は、いつもの部屋に落ちていった。
※
────すぅ────……っ
耳に届いたのは、深い深い息遣い。
まどろみの中。
自分の肺が大きく膨らむ感覚に、エリックは意識を取り戻した。




