7-16「恥ずかしミリアの床事情」(2P)
聞こえないのを承知で零していた。
すぅすぅと寝息を立てている彼を通して、「今まで」が渦を巻く。
「おにーさん、大丈夫?」と声をかければ「……大丈夫」と返す彼。
「寝てる?」と聞けば「寝てるよ、ちゃーんと」。
「疲れてる?」と聞けば「疲れてない」。
誤魔化しているとか、鬱陶しがっているわけではなく、同じ調子でそう返ってくるのだ。
そのフラグを回収するように、ヘンリーの声がする。『リーダーは無理しすぎなんですよ。現にこうして倒れちまって。まったく言わんこっちゃない。いつかやると思ってましたよ』
「────ほ〜〜〜らもう。
言われてるじゃん、ばか。
気づかなかったわたしも責任あるけどさあ、立って居られなくなるまで頑張ることないじゃん、ばか。」
丸椅子の上、あげた膝を抱え込むように座って頬を膨らませる。
「バカ」と言ったら彼は腹を立てるのだろうが、この場合は「ばか」以外に言葉がなかった。
「あのね? 『顔色おかしーなー?』ぐらいはわかっても、それ以上はわかんないんだからね、ばか! 言えばか! もう!」
──ビシッ!!!
「────起きたら説教返しだからね……!
文句は言わせない……!
覚悟しやがれ……!」
一度流れ出た文句の勢いに任せて、思いっきり言い切った。
これだけ迷惑をかけられたのだ。
ほんの少し説教をかましても、女神さまもマジェラの大魔導士さまも、特にお咎めしないだろう。
むしろ、彼にはいつも小言を言われているのである。それを楽しんでいる時もあるが、こうなったのなら100倍返しだ。
そう意気込みながら、「ふんす!」と鼻息を荒く噴き出し──しかし、次に湧いて出たのは、憂いのような感情。




