7-15「ボクの自慢の盟主サマ」(6P)
ぶっちゃけ、突然愚痴を言われるのは、珍しいことじゃない。
ミリアの体感、ヒトにもよるが、人間の六割は愚痴でできていると思えるほど、不満と愚痴は誰からでも零れるものだ。
ただ、この流れで愚痴が飛び出してくるのは、少し意外だった。
ヘンリーという男は、先ほどまでこちらを警戒していたのだ。
おそらく品定めもしていただろう。
『自分たちのリーダーが一緒に居た相手の素性』を探る様子もあった。
そんな相手に、愚痴など零すものだろうか?
そう、頭の隅で考えながら。
静観するミリアに、ヘンリーは続ける。
「お役に立ちたいと思っても、『無用』と言われてしまえば元も子もありませんよ。ボクらにはどうすることもできない。
責任も、背負ってるもんも分かりますよ。
だけど全てを負うことはないでしょう?
現にこうして倒れちまって。まったく言わんこっちゃない。いつかやると思ってましたよ。今日だって」
”はあ”と短く息。
目の前で悩ましげに色を変える男は、薄紫の瞳に心配と安堵と怒りを宿している。
そんな様子に、
(まあ、わからんでもない。うん)
と同意するミリアの前、ヘンリーは堰を切ったように息をつくと、
「場所が街中で、ボクらがたまたま居たから良かったですけど。
人の身を案じる前に自分を何より大事にしろってんだ、ったく……!」
「────…………」
彼の愚痴を聞きながら、ミリアは、無意識に二人を見比べていた。
────不思議な感覚だ。
今まで『エリック』という人間を見てきたが、それは『ミリアの目から見るエリック・または彼自身が語る彼』であり、『他の人間が語る彼』は、これが初めて。
ミリア自身、エリック・マーティンという人間に対しての印象や評価は持っている。しかし、こうして他者から見聞きするそれは、また違うものだ。
いつもジト目で『保護者』を決め込んでいるエリックが、愚痴られている。愚痴を溢す側だった彼が、愚痴をこぼされている。
────そこから感じる、ヘンリーの気持ち。
────ほんの僅かな時間ではあるが彼・ヘンリーにとって、エリックが『それなりに近い存在であり、温情をかけたくなる人間だ』ということが、十分過ぎるほどわかった。
(…………う────ん……そか。)




