7-14「相棒の彼に押し倒されて……」(4P)
責務と倦怠感が渦を巻く。
今まで、どれだけ激務でも健康管理には気を配ってきたし、運動もトレーニングもしてきた。健康にも体力にも人一倍自信があった。
しかし今、
体が床を──、いや、ベッドを求める。
とにかく横になりたい衝動に襲われて仕方ない。
目じりが妙に下がっているような気もするし、今にも瞼が落ちそうだ。
だが、今は『出先』で、『ミリアの隣』である。
買った荷物もある。
メンツもある。
心配をかけるわけには行かない。
総合的に考えて、彼は今。
ここで倒れるわけにも、放り出すわけにもいかなかった。
(────そうだな……なんとかあと数時間やりきって、体を休ませよう……ここで、ねを、あげるわけには……行かない……)
ぐるりと思考を巡らせ、眉間にしわを寄せ、ひとつ。
ぐっと右腕に力を入れ、立ち上がろうとする隣から────
彼女の声がする。
「…………ねえ、だいじょぶ?」
「大丈夫。俺のことは、気にしなくていい」
「……寝てる? なんか、顔色が……」
「…………寝てる。
大丈夫だ。
ほら、行こう」
問いかけに首を振り
重い石を持ち上げるように腰を浮かせ、立ち上がった────瞬間。
ぐらりと、視界が、歪んだ。
視界の外側から、闇が広がる。
前が見えない。
よろめきそうになる足にぐっと力を入れて視界を遮断する。
駄目だ、立ち眩みだ。
情けないがどうしようもない。
そんな状態は、彼の口から、弱弱しい言葉となって外に零れだしていた
「…………ミリア…………
すまないが……
少し、肩を貸してくれないだろうか…………」
「肩?」
立ち上がりざま。
顔面を押さえて絞り出すような声に、ミリアはオウム返しに繰り返した。
先ほどの『大丈夫』から一転。
珍しい彼の言葉に目を見開き驚いて、ミリアはこくんと頷き立ち上がると、
「良いよ、立ち眩み? やっぱ調子悪いんじゃない?」
言われて手を広げた。
正直、それは彼女からすると、違和感のない申告であった。
ミリアはエリックと付き合いが長いわけではないが、今日の彼はどことなく大人しく感じていたのである。
饒舌じゃないというか、口数が少ないというか。
まるで出会った時のような余所余所しさと、反応の鈍さに、何度か声もかけていたのだが──彼の答えはいつも決まって「平気だ」「大丈夫」の一点張り。
これが幼いこども相手なら「そんなことないでしょ」と強くも出るのだが、彼は男性だ。プライドが高いのも知っている。それ以上声掛けのしようがなかったが──
やはり、本調子ではなかったようである。
(──立ち眩みかぁ。おにーさんも人間だしね。)
ぽっそり呟きつつ、ミルキーパルクの片隅で。
『ほんの数秒ぐらいお安い御用だ』と言わんばかりに、ふらつくエリックを両手で迎え入れるように抱き留めて──




