7-14「相棒の彼に押し倒されて……」(2P)
広場を行く雑踏を恨みがましく眺めながら、膝に肘を突くエリックの隣から、刺さる不思議そうな眼差しに気が付いて。
エリックはずっしりと上半身を起こすと、
「………………暑く、ないのか?」
「暑くないけど……?」
ぐっ……と背中に力を入れて、ゆっくりと放った問いに返ってきた軽いトーンは、エリックを黙らせるのに十分だった。
隣で座るミリアは、薄手の長袖を合わせているにも関わらず平気そうなのである。
正直めまいがするぐらい暑いのに、正気なのかと問いかけたい気分だったが、瞬間、エリックの脳に廻るのは「いつものミリアの装い」だ。
流行りの型のワンピース。
緩やかで大人しく、人に不快感を与えない恰好。
首周りは空いているが基本長袖の印象で、言われてみれば、出会った時からずっと、彼女が腕を出しているところを見た記憶がない。
真夏でもそうなのだから、今日がいささか暑くても、平気なのかもしれない。
「……そうか。そういえば、きみ、いつも袖の長い服を着ているよな」
「ん? うん、そだね、長袖」
言うと、ミリアは目を丸めて自身の身なりを確かめるように両手を開き、手元の袖を引っ張っぱった。
そのまま手の甲をすっぽりと覆うように袖を伸ばしつつ、腕をさすりながら、
「……仕事中、縫い物したりとか、線引くときにカウンターにぺたってくっつくのが嫌なんだよね。
糸もくっつくし。
あと、肌出すの落ち着かない。
元々ローブだったし、なんか、腕周りにないと、そわそわしちゃって」
「…………そう」
恥ずかしそうに肩をすくめる彼女に相槌。
ミリアは続ける。
「うん、だから長袖。あとマジェラってもっと暑いから、日よけ対策もあるかなあ。それで育ってるからなかなかね~、落ち着かないの」
「…………うん」
「もともと暑さには強いほうだから、こっちの温度はほんと快適! 長袖でもちょうどいいの気持ちよくて、最高っ! 今日はとくに過ごしやすいよね、お天気で良かったね~♫」
「…………」
────眉をひそめたり、おどけるように肩をすくめたり。
くるくるころころ変わるミリアを前に、エリックは静かに腑に落ちていた。




