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7-13「もこもこのんむ」(5P)



「オリオンは「忌まわしき血・呪われた家」だと恐れられているけど、お仕えしているとそう感じないでしょう? 旦那さまも、笑うことはないけれど気配りの出来るお方よ。何より私たちの雇い主ですもの。遠い未来の、魂の安寧を願うのは当然よ」



 言いながら、洗濯紐に衣類をかける。

 屋敷の人間たちが毎日出すそれは、いつもいつも大量だ。


 しっとりとした衣類を持ち上げ、広げるイルザの隣。

 ドロシーは少しの沈黙の後、それを緩めに広げながら彼女に目をやると、不可解を露わに問いかける。



「イルザ、ワタシ、わからない、あります。ダンナサマ、手紙、たくさんです。こいぶみ、もらっている、います。いつも、おなじなまえ、あります」

「……恋文? ああ、ロゼ・ルーベンツ様と、アルベラ様、それに……ミリア様よね? あのお三方は小領主のお嬢様なのよ。旦那様に取り入りたくて必死みたいね」


「舞踏会も、踊る、していました。「仲良し」、聞いた、です。メ―チェル、「きゃあ、いい感じ」、楽しそう、ありました」

「……どうなのかしら。旦那様が、あのお三方からお相手を選ぶ……、そんなこと、あるのかしら」



 「好みじゃなさそう」、首を傾げてイルザは答えた。エルヴィス盟主の女の趣味は明らかにされていないが、その三令嬢と馬が合うとは思えない。「ならどんな女性が相応しいか?」と聞かれたら答えられないが、とにかくあの三令嬢とは、婚姻を結んでも上手く行くとは思えなかった。


 そんな空想に、イルザがやれやれと息をつく中。隣からドロシーの声が飛ぶ。



「無きにしもあらず、では?」

「ドロシー? どこでそんな言い回し覚えてくるの?」



 たどたどしさから、一転。

 そっけない口調を驚きに変え、目を丸める。

 確かに最近、ドロシーは辞書を読んでいる様子だったが、こうもアンバランスな言い回しをされると異物感に驚いてしまう。


 ──しかし、不思議そうに首をかしげるドロシーを前に、イルザは追及を諦めた。彼女は語学習得の最中。普段言わない言葉が出てきてもおかしくない。


 そして、流れるように衣類を拾う彼女から、零れ落ちるのは──『盟主エルヴィスの事情』だった。



「……まあ『あの話』が本当なら、躊躇うのもわかるけれど……」 

「あのはなし?」





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