7-13「もこもこのんむ」(3P)
洗いたてのシャツを一枚、パン! と広げ洗濯紐にひっかけるイルザの隣、メーチェルは先ほどから握りっぱなしの洗濯物をさらに腕に巻き込み、 ”んんぅ~~~”とキューティーを醸し出しながら空に上目遣いを送ると、唇をつんと立てながら述べるのだ。
「”きらきら たのしい”とかあ~!
”もこもこ のんむ”とかあ~!
”ふんふん♪” って歌ってたのぉ!」
「──────夢でしょ。あり得ない」
「ほんとーだってばあ! もおっ! イルザいつもそやって信じてくれないぃ~!」
身振り手振り。
盟主エルヴィスの歌を再現して見せたメーチェルに、イルザの冷たい声が飛んだ。あり得ぬ話である。あの、「武骨で笑顔の一つも見せないあるじ」が、鼻歌など歌うわけがない。
「三割は信じるわ。でも残りは信じてない」
「イルザ、こぉわぁいぃ~!」
言われて”ぷりぷりっ”と口元を抑え上目遣いをするメ―チェル。
メーチェルはいつもこうである。手より口の方が早く、ろくに仕事をこなさぬまま時間が過ぎていく。エルヴィスの性格を考えれば即刻解雇になりそうな性格なのだが、これがまた、盟主の前ではおとなしいのだ。
他にも咎めればきりがないが────
イルザはそこまで関与しようとは思わなかった。
しかし、でたらめを言うのは別の話だ。
黙々と仕事をこなすドロシーを背景に、いまだ一枚目のシャツを『ぺしょんぺしょん』とダラけ伸ばしているメーチェル。イルザは厳しい目を向け口を開けると、
「────あのねメーチェル……」
「メーチェル~~~~~!! メイド長が呼んでるーーーーっ!!」
「ぴぇえええええええええええ!?」
イルザの声を遮って、メーチェルの悲鳴が響いた。
三人そろって目を向ければ、屋敷の勝手口で他のメイドが呼んでいるではないか。
その様子に『はわわわわわっ!』と体を震わせると、わき目も降らず駆け出していくメ―チェル。その片手には、しっかりと洗濯物を握りられており──イルザは思わず口を閉ざして黙るのである。
(……あの洗濯物……どうするのかしら……)
走るスピードと同じ速度で庭を横切る洗濯物に目を向けつつ。
げんなりと表情を呆れで染めるイルザの、その隣から。
黙々と仕事をしていたドロシーの、たどたどしい声が響いた。




