petit:ミリアです。困ったことがありました。
ミリアです。
困ったことがありました。
わたし、仕事は着付師で、ドレスや衣装をご提案したりカウンセリングしたりしています。そしてそんな着付師の憧れは、マスケ・モデルの二人。『オリビアとリック』です。
──わたし、オリビアのお母さま『ココ・ジュリアさま』がきっかけでこの国に来て。いつかお目にかかりたいと思って、大それたことなんだけど、夢に見てて。
で、ずーっと娘さんの『オリビア』が好きで仕方なかったのね?
で、
「この前ね?
なんとね?
そのオリビアの相棒の、リックに…………
リックに…………
リックに助けられてしまった。
嘘だと思うでしょ? でもほんとで!
なんかよく知らない暴漢にひっかかって、危ないところ助けてくれたのがリックで、それで、チケットまで貰っちゃって、しかも、きいて!?
わた、わたし、わたしの、て!
てを、こう、掬い上げて、両手で握るようにチケットくれたの!
『待ってる』って! それだけ言って!!
こんなことあると思う? ねえ、おじちゃん!!」
「──おおう、いい男だねぇ~、リックってやつぁ。んで、ミリアちゃん、ショーは楽しんだのかい? あれだけ気合入れて楽しみにしてただろ? どうだったんだい?」
「────行かなかった」
「えっ? いかなかった??」
「────行けるわけない! だって、使えないでしょ、リック本人からもらったチケット、出したら回収されちゃうんだもん! むりむりむりむり、一生とっとく! って思って、おうち帰って、そのあともずーっとぽわぽわして、『困った』!!」
「お、おう」
「困ってる、わたし、困っている! おじちゃん! 『オリビアとリック』て、ペアでしょ? 二人並んで映ってるでしょ? もう、あの、本当に哀れなんだけど、それからその辺のポスターとか、リックの顔見るとドキドキしちゃって、本当にヤバくて、相手モデルの有名人なのに、自分が馬鹿で仕方ないんだけど、…………有名人相手に……ッ! ああ! 『報われない』! こんなのあほすぎる!!」
「…………み、ミリアちゃん? あー、つまり」
「わかってる。わかってる、相手、わたしのこと、覚えてない。超背景。民衆の粒。一般人。っていうかドレスのスパンコールのひとつぶだよね。自覚はあるの!!! ……でも、でも、でもねっ? あんなことされたら無理じゃない? 無理だと思わない? 庶民の癖に、もう二度と会えないのに、あーもう何やってるんだろ? ──でね? リックの顔、見るの無理だから、オリビアだけ切り取って、あと全部棚に封印したの。だって無理だから。見たらドキドキしてヤバイから。で。何気なくこの前その棚あけたら、全部リックで心臓止まるかと思ってぇぇぇぇ、おじちゃあああああああん、もうわたしどうしたらいいのおおおおおおお」
「…………」
────それは、祭りも終わったある日、夕暮れの喫茶店。
要約すれば『モデルのリックを好きになってしまった』とカウンターで嘆く常連のミリアに、うんざりと。喫茶店のマスターは(鶏でも焼いて出すかねぇ……)と、ため息をこぼしたのであった……
ここで一か月のお休みです




