7-8「走って走って」(4P)
────スカっ。
(え?)
スカった。
目が、顔が、点になり硬直するが、手だけは確かめるように動く。
すかっ。
すかっ。
ぽふぽふ!
ぽんぽん!
「────、え!? ポシェットは!?」
そこにあったはずのソレに素っ頓狂な声が飛ぶ。
寝耳に水とはこのことである。
一気に血の気が引いて、声も出さずに腰回りを叩くミリア。
(うそウソうそ嘘……っ!!)
突き付けられた現実から掬いを求め縋るように、動く手のひらが辿り探すは『あったはずの肩紐ストラップ』。
腰から胸の前、左の肩まで、『あったはずの紐』をエアーでなぞって────
「無い……! ない……!
うそおおお、無くした……!?
──え、無くした……!?」
聖地・クレセリッチの路地裏に、悲鳴交じりの声が零れ落ちた。
一気に詰まる喉、冷えていく背中。
慌てて周りの足元に目を向ける。
高速で頭の中が巻き戻り、ポシェットの最終確認時を『探す』が、思い当たらない。
(あいつにストールぶつけた時はあった!
でも、そのあと、どうしたっけ!?
そのあと、……どうしたっけ!?)
探す・探す・思い出す。
ストールと魔法をぶつけた後のことは、ただ、自分の走りに合わせて目まぐるしく動く雑踏しか出てこない。腰でぽんぽん揺れていたような気もするが、いつ肩から外れたのかもわからない。
────記憶が、ない。




