7-8「走って走って」(2P)
(…………ヤバ、迷ったっぽい……!)
と、頬に一筋の汗を流すミリアは、『聖地・クレセリッチ』をよく知らない。
移住して間もない頃は、浮かれ気分と好奇心に突き動かされ、まるっきり観光気分で歩き回ったりもしたのだが──
海岸線生まれで『パサー山脈があっちだから、反対行けば海』『海さえわかればあとはわかる』と、雑な方向認識力でも生き残れる土地で育ったミリアが、山に囲まれた北部の街で迷わないわけもなく、大いに迷いまくった。
ウエストエッジにいたはずが、いつのまにかクレセリッチの知らないところを歩いていて、慌てて戻るが『戻れない』。どこもかしこも同じ店・路地に思えるし、どこに進んでいるのかもわからなくなる始末。
結局、一晩中街を彷徨いまくり、挙句の果てには『この建物5回目』を味わった彼女には、見事『クレセリッチきらい』と苦手意識がつき、あまり開拓してこなかったのである。
(────やっぱり冒険しておくんだった……!)
『5年もあったのだから、歩き回るだけでも違ったかもしれないのに』
────はあ~~~っ……!
──という後悔は空の中。
息を吐きつつ宙を仰ぎ、どこからともなく聞こえてくる民衆のざわめきに意識を預け、ふっと気を抜き胸を落ち着かせる彼女。
とりあえず、街の中心には近づいたようだ。
ざわめきがミリアにそう語る。
ここがどこだかわかりはしないが、息を整え汗を拭いたら『女神の広場』を目指せばいい。
────ふう……
民衆の喧騒を『自らの安堵の材料』に使い、狭く清潔な裏路地から空を見上げる。
見知らぬ三階建ての建物も、奇麗に締められた窓も、路地の終わりを表す壁も。見知らぬそれらを眼前に、彼女が脳で思い描くのは、『モデル リック・ドイル』への思いだった。




