7-7「喰われるアコガレ」(2P)
腕を引かれ裏路地を行きながら、ミリアは耳に髪をかけなおした。
緊張と照れを宿した面持ちのミリアの腕を引いているのは、相棒『エリック・マーティン』──ではない。先ほど声をかけてきた『リック・ドイル』と名乗る男である。
ヤツがミリアに『オリビアに会いたいか』と聞いたのがついさっき。
ミリアは二つ返事で頷いた。
映りの悪いポスターを隣に、さも自分が本物だと言わんばかりにポーズを決めるヤツに、ミリアはあっさりと信じてしまったのだ。
願ってもいない事だった。
なにせミリアは、生粋のオリビア推しなのだ。
この街の広告塔で、着付け師の憧れ。
死ぬまでにひと目、会いたくてたまらない人。
写し絵の中でしか見たことのないオリビアは、神のような存在だ。ここ最近『リック』という男性モデルも人気を集めているようだったが、ミリアの中で『オリビア』には到底敵わない。
『リックとオリビア』なら迷わずオリビアを取る。
『リックも捨てがたいが、断然オリビア』。
『オリビアに、ココに会えたら死んでもいい』。
そこまで思う理由は
ミリアの人生が『ココ・オリビア』の母・稀代のモデル『ココ・ジュリア』によって変わったからである。
彼女が居たから、華やかな服が流行った。
彼女が居たから、南のマジェラまで衣装が回ってきた。
彼女が居たから、あの日バザールで『鮮やかな服』見た。
彼女がいたから、ミリアは国外を知ることができた。
ジュリアが居なければ、彼女は華やかな衣装の存在を知ることも、着飾る喜びを知ることも、スタイルする達成感も知ることなく、一生『黒と灰色のローブで過ごすこと』に疑問も持たず、『ほかの国に行く』という発想もなく終えていただろう。




