7-7「喰われるアコガレ」(1P)
『オリオン領・ウエストエッジ』
────この街の服飾産業の発展に、大きく貢献したものが二つある。
ひとつ。
モデル『ココ・ジュリアの存在』。
そしてもうひとつは『転写魔具』だ。
いくらモデルが居ようとも、手の早い肖像画家が居ようとも『それを街中に配るほど複製する』など到底出来はしない。
しかし『転写魔具』はそれを可能にした。簡易に・それでいて素早く『同じものを紙に映し出す』それらは、ジュリアの活躍を大いに助け・そして広めていった。
──しかし。
それらの道具で作られた『複写絵』は、お世辞にも『景色を綺麗に切り取り、閉じ込めたような代物』ではなかった。
瞳から見える世界に比べると、その精度は格段に悪い。
写りは荒く、白と黒のモノトーン。被写体の顔の細やかなところも────『覆面なしでも判別できるかどうか』という仕上がりでしかなかった。
それらを元祖魔道国家マジェラ出身のミリアから見れば、
『これなら貴族の肖像画の方が綺麗では……?』
『なんならわたしが写し絵にしましょーか?』
『わたしのほうが綺麗に写せる……これなら自信ある……』
と不満げに唇を立て首をかしげる代物であったが、所詮『魔具』。
簡易的に魔力の込められた道具など、その程度の質でしかないのだ。実力のある魔導士ほど上手に映せるわけがない。魔導士から直接放たれる技術に勝てるわけがなかった。
しかし、昨今。
そんな『精度の悪いポスター』を逆手に取り、悪用する奴が出始めたのである。
『写りが悪いなら本物かどうかわかるわけがない』
『髪さえ寄せればどうにでもなる』
『騙されるやつが悪いのさ』──。
こうして、覆面・システムは、モデルたちの生活を守るとともに、詐欺師の新たな武器になりつつあった。
今日。
カルミア祭という祝いの場で、ミリアをひっかけた[モデル『リック・ドイル』を名乗る偽物]が、その一例である。
「…………うそみたい。ほんとに会えるなんて……!」
「うふふぅ、早く行こうねぇ、ヒメぇ♡」
(……わたし、変じゃないかな? 大丈夫かな?)




