7-6 レッツ!カルミアフェスティバル(4P)
穏やかな空から降り注ぐ日の光は、ミリアの故郷・マジェラでは、ひと月ほど先の柔らかさである。
ノースブルク諸侯同盟国・オリオン領・聖地『クレセリッチ』。
軒を連ねる出店や屋台・道を行く人々を横目に、ミリアは『女神の広場・ミリアル・ラパンガン』を目指していた。
祭りというものは不思議だ。
文化の伝統の面も持つが、今を生きる人々の感性や流行に合わせて、少しずつ形を変えるようである。
現に、このカルミア祭も、ミリアがこの国に来た5年前より変化を見せていた。
当時は成人服を纏った新成人を、平服の人々が囲んでいる印象であったが、5年の時を経て成人服に混じって他の仮装を楽しむ人が増えたのだ。
(……あ、あれは猫ちゃんかな?
あ、こっちはピクシーかな?
かーわいい~♪)
通りのわきに置かれている、横長のベンチに腰掛け、呟く彼女。
手に握っているのは購入した串焼きだ。
具材はもちろん鶏である。
厚みのあるもも肉をぶっすりと豪快に刺し、火であぶり焼いた一品に微笑みが止まらない。
鼻を近づけるだけで、ぐるりと胃を動かすニンニクの香り。
程よい脂を纏い、したたる肉汁に心が躍る。
あんぐりと口を開け向かい入れれば、鼻の奥まで広がるハーブのいい匂い。
(……うんま~~~♡)
ぷりぷりとした皮の内側を舌の上で堪能しつつ、ぽってりと頬を抑えて噛みしめた。
手には大好物の『鶏』。
口の中は美味しいのフェスティバル。
そして目の前は、着飾った人々。
(────あぁ~……しあわせぇ~
華やかっていい~、鶏美味しいぃ~……
楽園って、こういう場所を言うんだきっと~
はあ、素敵~……)
目の前の『華やか』を目いっぱいに眺めつつ、口の中では鶏の甘みに舌鼓。
(────しあ・わせ……!
ってゆか、あのおねーさんの『女神様』、クオリティー高い……!
本物……!
本物見たこと無いけど、あれは本物でいいと思う……!)
目の前を通りゆく『絵画から出てきた女神』に目を丸め、これからの戦闘に備え英気を養うミリアの──その隣。
突如現れ落ちてきた、『ストンと座る影』。
視界の隅に増えた人影。
距離の近いその気配に、ミリアが『うんっ?』と口を止めた時。
声は、突然降りかかってきた。




