7-6 レッツ!カルミアフェスティバル(2P)
厳かな式事祭典の他に、服飾産業で栄えたこのあたりでは『発展の象徴』として、モデル『ココ・オリビアとリック・ドイル』のパレードおよびショーも行われる。
それがなぜ女神のクローゼットではなく、聖地のこの町なのか疑問であるが、きっと大人の事情が絡んでいるのだろう。
この国にきて5年。
5年経っても、盟主の顔も名前も覚えていなかったミリアであったが、リックとオリビアの名前は即覚えた。すぐに覚えた。
素早くフルネームを言うミリアに、エリックは「盟主の名前はあれほど憶えなかったのに」とため息をついていたが、ミリアやその他一般の民に置いては、『普段見ることもない盟主・エルヴィスサマ』よりも『覆面モデル オリビアとリック』の方が、認知度も人気も圧倒的に上なのは当然である。
────覆面。
黒き布で瞳すらも覆い隠し、鼻より上の造形は誰もわからない。
正体不明の広告塔。
その、華やかでありながら秘密めいた存在が、人々の興味を駆り立て、購買意欲を刺激する。
彼ら覆面は『服飾産業の救世主』であり、それらにかかわる人々の『憧れの的』だ。特に、ミリアを筆頭に、着付け師のあいだではそれが顕著であった。
モデルの彼らは、彼女たち着付師にとって『一度はスタイルアップしたい・ひとめで良いからこの目で存在を確認したい』対象として、人気と羨望を集めている。
その正体が、ミリアの相棒『エリック・マーティン』──いや、エルヴィス・ディン・オリオンだということは、ここだけの秘密である。
実は密かに『会いたくて仕方ないモデルの中身』に遭遇し、靴を投げ・胸ぐらを掴み・『かっこいいセリフを言え』と無茶振りをし、『バカ』を連呼し思いっきり喧嘩までしていることなど知らぬ、ミリア・リリ・マキシマムは、
(ふふ、ふふふふふふ……!)
道の隅で怪しげに笑いを漏らしていた。
綻ぶ頬に力を入れつつ、”ぎゅわっ”と握りしめる『手元のチケット』。
しっかりと指に力を入れ日付を確認し、今日のために用意したバッグにそぉっと入れ込み、蓋をする。
パンパン! と確かめるように叩いた彼女が次に見つめるのは、縫製工房のショーウインドー。
上から下までチェックする。
真剣なハニーブラウンの瞳で捉えるは、緩く編みこんだ髪。いつもより気合を入れたメイクに、新調した服。慣れないながらも整え、色を乗せた爪。
おしゃれ用のストールを整えて、短く息を吐き出し────!




