7-5「3勤交代シフト制」(6P)
自国の祭りはどうにも儀式めいていて、彼女の感性に合わなかったが、ノースブルクの祭りは違う。カルミア祭を皮切りに、ゴルザのバザール・盟主の誕生祭・ステーレナなど『華やか』が溢れる。
そんな祭りを思い浮かべるだけで、心が弾みわくわくとするのは毎年のことだが──今年は、輪をかけて特別だった。
「ふ・ふ・ふ……♡ カルミア祭……カルミア祭……♡」
人目があるのににやにやする。
口元のゆるみが抑えられない。
『オリビアとリックのパレード&ショー』が待っている。
夢にまで見た舞台に、どうしようもなく浮かれ切っているその隣で────若干眉間にしわを寄せ、難色を示すのはエリックである。
「…………なんだよ」
と一言、牽制のように怪訝を放ち、無骨な声を投げる。
その『浮かれかた』が、目に見えて舞い上がりそうで。
無意識に腹の奥がイラっとする。
「──なんだか随分と浮足立ってるじゃないか。
当日誰かと約束でもあるのか?」
「ある。超ある。死んでもいかなきゃいけないところがある……!」
「…………そう。へえ。」
「うん!」
力強く答える彼女は気づいていない。
隣のエリックが纏う空気が変わったことに。
「とりあえず美容院行くでしょ? 服買うでしょ? それでメイクはどうしよっかな……、新しいリップとか買っちゃおうかな……!
あっ、あっ、髪型! ヘアスタイルの勉強もしなきゃ! こんなんじゃ会えない! はああ、やることいっぱいでどうしよう!?」
「────……知らない」
「そうだよね知らないよねわかってる! おにーさんにそんなの関係ないのわかってるけどごめん聞いて!? 大事な事なの。そこに全力をつぎ込むの。決戦だから! 決戦だから!」
「…………はあ、そう」
「服買うでしょ、2週間前には早寝を心がけて、パックもしないと! 服が新しくなるなら靴とバッグも併せなきゃだし、美容院に、あああああお金が! お金がかかるうううう!」
『まるっきりデートに挑む女の子』のようなことを言いながら、頭を抱えて声を上げるミリアに、その『冷静を含んだ苛立ち』は、素直に投げられた。
「……行かなきゃいいんじゃないのか。金がかかるなら」
「────行くし。お金かかっても行くし。
行かなきゃダメです。行く以外の選択肢なんてないです」
エリックの嫌味を、あっさりぴっしゃり却下して。
ぐぐっと握りこぶしを作り、強い眼差しで空を見つめる。
苛立ちの原因のわからぬエリックと、カルミア祭で推しに会うことしか考えていないミリアの、妙な空気を草原の風が吹き流し────
ふと。ミリアは目を止め彼に聞いた。
「なんか機嫌悪くない?」
「…………別に。普通だろ」
「顔色も悪くない?」
「……腹の虫が悪さをしてるだけ。なんでもないよ」
「トイレ?」
「違う」
「…………」
「…………」
あからさまに不機嫌なのに、テンポよく返ってきた言葉。
瞳に映る、やや機嫌の悪そうなエリックを、上から下まで流し見て────
「炎のキープはしてください?」
「やってる」
彼の指先で、やけに燃え上がっている『火の玉』に、忠告を送ったのであった。




