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7-5「3勤交代シフト制」(4P)



「……まあ、そ、れは────、

 その、なんというか」

「下手なフォロー要らないし。

 その『困ってる感』、こっちも困るし。」



「──いや、別に、その、”困ってないよ”?」

「困ってるじゃん。

 顔、ひきつってるし。

 みたらわかるし」

 


 あからさまに『やべえこと聞いた』を醸し出しつつ、引き気味でありながらも下手糞なフォローを寄越す彼を、ばっさりと切り捨てるミリア。



 逆に大笑いしてくれたり、ドン引きしてくれたほうが優しい。下手な気遣いが妙に痛く刺さる中、



(こういう時、おにーさん下手っぴだな)と呟きつつも

(まあ、実際わたしも退くと思うしなあ……)と切り替え、一呼吸。

 


 依然、『どう言ったらいいんだ』と、困惑を持て余すエリックに、一瞥(いちべつ)。ミリアはぼんやりと空を仰ぐと、その瞳で夕映えを眺めながら言う。



 

「……マジェラってさあー

 お祭り変なんだよねー

 地味で暗くて、宗教じみている」



 眉をひそめて一つ。

 『はぁ』と困ったように肩をすくめ、


  

「わたし、世界全部が同じお祭りやってるとおもってた。

 でも、違った。

 出てきてびっくりした。

 まじでマジェラ地味。ありえん。

 今はもうマジェラの感性どうかしてるとおもう」




 言いながら首を振る。

 頭の中で『故郷のお祭り全否定』をする彼女の隣、エリックというと、未だ『やや難しそうな顔』で、何とか口を開いて言葉を紡ぐのである。



 ──まるで、懸命に取り繕うように。




「……まあ、成人祭りは華やかに執り行うところもあれば、厳かな国もあるよな……」

「『おごそか』とは。今の話に『厳か』って言葉、つかう??」

 

「──豊穣祭は? どんなことをするんだ?」

「さらっと流すし~、今それ聞くう〜??」


「異文化教育だと思って、頼むよ。ミリア」

「…………まあいいけどさあー」




 青く黒い瞳に柔らかさを宿したエリックに、頼むように首を傾げられ、ミリアはしぶしぶ息をついた。



 正直ぶっちゃけ語りたくはないが、これもエリックの気遣いなのだろう。成人祭りを打ち明けた直後だ。先ほどよりもハードルは下がったのだ。

 数秒前よりだいぶましである。



 それらで心を落ち着けて、ミリアはふっと空を仰いだ。

 思い馳せるは、遠い南。

 南の海に面した、マジェラという魔道国家の思い出(はなし)

 


「マジェラは、魔道の力のほかに、海の恵みで暮らしているから。

 豊穣祭より、海の方。

 海の神さまに感謝するの。地味なんだけどねっ」


 

 ────朗らかに。

 『こちらに比べたら地味で怪しいそれら』を思い出しながらも、『精いっぱいの奇麗さと懐かしさ』を出せるように顔を作る(・・・・)ミリアに



 エリックの『理解のほほ笑み』が返ってくる。



 

「──海の神……、ああ、うちも、オーニエの港町でやっているよ。多少地味だが、厳かでいいよな。巫女神官が舞ったりするんだろ?」

(……み、巫女さんが舞う……だと……!?)


 

 まったく悪気の無い返答に、ミリアは愕然とぷるぷるした。

 


 エリックの『ナチュラルおしゃれ発言』に言葉がない。

 まるで『田舎者が街に出てきておしゃれな服を買ってウキウキしているところに、最新流行ファッション&高級ブランドで殴りに来るような発言』に喉が縮む。




(み、巫女さんが舞うお祭りのどこが『地味』っ……!)



 と、固まり震えるミリアの隣で、『彼女の沈黙』の意味を取り違えた『女神のクローゼット育ち』の彼は、色鮮やかにほほ笑み、お伺いを立てるように問うのである。



「違うのか? なら、神殿を青色の花で飾りあげるとか?」


「…………」

「? それも違うのか。

 ……そうだな……ああ、わかった。

 『母なる海に向い、楽団が音楽を奏でる』のだろう? 遠い南の国ではそういう祭りがあると聞いたことがある」


「…………」



 黙るミリアに、いつの間にか盟主口調で語る彼はわかっていない。

 彼女が今、何にダメージを受けているのか。

 どうして黙り込んでいるのか。

 そこに気づくことなく、盟主は続けるのだ。

 穏やかで、理解を示した優し気な口調で。



「──? ……そうか、それも違うのか……

 なかなか難しいものだな。

 他国の事情を知らぬ俺では到底想像もできないが、わかった。

 『暗がりの海に皆で光を放つ』……とか?

 ──そうして、海の神への感謝と祈りを」

「……発想が! 

 発想がオシャレでツラい!! ツライ! 

 おにーさんのばかああああああああっ!」

「えっ!?」



 限界突破したように『ぶわああああ!』と涙を流し叫ぶ彼女に驚いた。

 彼としては、ミリアが泣いてしまうようなことをしたつもりも記憶もない。突然の『勢いの良すぎる涙』に面を食らうエリックの前、ミリアは()を置かず言うのである。




「いいにくい! 超言いにくい!

 『地味で暗い』言ってるのにーっ!!」


「……そ、そんなに?

 俺なりに、地味な祭りを想像したつもりだったんだけど」

「どぉこが地味だっ! 地味の概念から勉強しなおしてほしいっ!」


「……地味の概念と言われてもな……無茶を言うなよ、俺だって、……。」



 涙目の訴えに困った顔でうなじを掻く。

 一瞬『泣かせた』事実に肝が冷えたが、そうでもなかったと解った瞬間彼を包んだのは安堵と困惑だ。


 エリックが『地味の概念』に悩むその隣で、涙をひっこめたミリアが詰め寄り言い放つ!




「あのね? ノースブルクと同じで考えないでくれるっ?

 あっちの地味っぷり半端ないんだから! 陰気で暗いんだからっ!」


「……じゃあ、どんな? ……教えて?」




 勢いよく飛んできた言葉と、元通りになった彼女に、エリックは──敢えて”にこり”とほほ笑み首をかしげた。




 エリックは知っていた。

 ミリアは『なんだかんだ頼まれると断れない(たち)』だと。



 瞬間眉を寄せ詰まるミリアに確信する。

 はじめは難色を見せても、少しばかり押せばミリアは答えてくれるのだ。

 じっと待つエリックの視界の中で、彼女はハニーブラウンの瞳を迷わせて────



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