表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

345/592

7-5「3勤交代シフト制」(3P)



(────ぐあっ、顔がいい……!)



 飛び込んできた顔面の造形に眉を絞った。

 『彫刻を思わせるような見目麗しい顔つき(デザイン)』。

 『……教えて?』と言わんばかりの視線。

 


(顔面の圧がすごい……っ!)



 ぐぐぐぐぐっと唇に力を入れ、葛藤するミリア・リリ・マキシマムは──痛感していた。


 当初から『エリックの顔の良さ』については評価していたが、それに『怪訝』ではなく『穏やかと理解』を乗せると攻撃力も倍増しである、と。



 別に恋愛感情などを抱いているわけではないが、『その攻撃力』を目の当たりにすると、流石のこちらもどぎまぎするというものである。



 しかしそれを感づかれるわけにはいかないのだ。

 ──奴の名前は『エリック・マーティン』。意地悪にからかってきたり、煽ったりする男である。


 エリックに対して恋心など、微塵も抱いていないミリアにとっては──渋い顔で押しつぶすしか、方法など無かった。


 ──しかし!


 『答えて貰いながら教えない』のは、ミリアのポリシーが許さない。




(……教えて、もらったし)

 ぎゅん! と絞る顔表面。



(相棒、だし)

 巡り巡る『等価交換』と『祭りの記憶』。



(────『フェア』、フェアにいかないと……!)


 巡り巡る、『とにかくフェアで居たい』という彼女のプライドが、重く・重く・固く閉じた喉を、ゆっくりとこじ開けて────





「………………つぼ」

「壺?」





 ぼっそりと早口。

 聞き取れないスピードで呟いたそれをきちんと拾い上げ、不思議そうな声を返したエリックを視界に入れることなく。『心底言いたくないけど』を醸し出しながら、ミリアは──悲壮と痛烈をたたえながら、言う。






「…………まちの、どこかに、

 

 だいたい、


 おっきな


 壺が、あってね。

 


 そこの、

 まわりを、



 ぐるぐる……



 練り歩く」

「…………壺の周りを練り歩く…………」






 ────おそらく。

 その『異様な光景』を想像しているであろうエリックの声が、期待から呆然へと変わってくのを肌で感じながら。


 ミリアはさらに『沈痛』を眉根を寄せ、一拍。

 

 『聞いたからには答えねばなるまい』と『針山の上を行く覚悟』で、続きを、絞り出す。






「…………夜、明かり灯して、



 黒いローブで、




 延々とあるく……」


「……延々? ……一晩中?」




「三勤交代シフト制で回ってくる……」

「………………」



「……そ、想像しないで、お願い……、

 国外(そと)出ると、おかしなとこだったんだなって自覚するというか……こっちのお祭り見て、カルチャーショックだったんだから……」




 目の前で、今まで見たことのないような、言いようのない難しそうな顔つきで黙り込んだエリックに、ミリアもたまらず両手で顔を覆った。




 エリックが黙り込むのもわかる。


 これだけ華やかで賑やかな祭りの国で育ったエリックからすれば、おそらく『その想像』は『異形』でしかないだろう。



 もちろんミリアにとっても黒歴史だ。

 マジェラに居たころから『へんなの』とご機嫌斜めで捉えていたのだが、あの頃は『それが世界共通』だと思っていた。



 彼女は勝手に『魔界の王様でも呼びそうな儀式だけど、世界中がやってるなら仕方ないか』と納得させていたのだが、ふたを開けば、ミリアの知る『外の世界』で『そんな呪いの儀式のような祭り』をしている国など、彼女が知る範囲にはどこにもなかったのである。




 ……もちろん、ありったけの文献を読んだわけでもない。

 世界各国を調べて回ったわけでもない。

 が、しかし『なかったらなかったでそれはそれでダメージあるからヤだ』と、ミリアは心を守るほうを取ったのだ。





 ──そして、そんな


 『あからさまに怪しい儀式』を


 『華やかな成人祭り』を行う国の民・エリックに語るのは────




 ────『自傷に近しい行為』なのは言うまでもない。




(────く、ぁ~~っ……、言いたくなかったアアアアアアア~~……!)

 


 まるで『10代の時に書きなぐった自己満足ご都合主義の物語』を読み返した時のような羞恥心と痛覚に、のたうち回りたいのを抑えるミリアの隣で。


 絶妙に複雑な表情のまま黙り込んでいたエリックは、頬をこりこりと搔きながら『あ──、』と一拍。




 気まずそうに息を吸い、


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ