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7-5「3勤交代シフト制」(1P)



「────ねえ、そーだ。カルミア祭ってなんで”カルミア”なの?」




 魔術特訓の帰宅途中。

 空に夕映えが広がり出した草原を行きながら、マジェラの魔法使いミリアは、ノースブルク出身のエリックにそう尋ねた。



 毎年この時期に行われる『成人の儀式 カルミア祭』。

 聖地クレセリッチ・領都ラルコルーラ・そしてウエストエッジを中心に行われる儀式のモチーフになっている『カルミア』は、花の名前だ。

 

 どんな祭りでも由来や起源があるのはミリアも承知の上だが、魔道国家マジェラに『祭りの名前を花からとる』なんて文化はなかった。



 ウエストエッジに暮らして5年。

 『なんで花なんだろ?』と思いはしたが、それを聞く機会がなかった。

 

 

 ────『そのあたり』を、察したのだろうか。



 やや憂鬱そうな表情から、一転。

 明らかに目を見開いた彼に、ミリアは『教えて』と言わんばかりに、肩をすくめて声を投げた。




「おにーさんなら知ってるかなって」

「──ああ、もちろん」


 

 

 返ってきたのは、エリックの柔らかくも得意気な雰囲気に、思わず心が緩んで笑う



 ────こういう『もちろん』は頼もしい。

 わからないことを素直に聞けるだけではなく、快諾してくれるのは、彼女にとって本当にありがたいことだ。



 ウエストエッジ( ここ )で、あとどれだけ暮らせるかわからないが、在住時間が長くなればなるほど『地元ならではの一般常識や風習について』は聞きにくくなる。

 

 これまでもピンチはあったが、この先もそれらは降りかかってくるのだ。

 



 そんなピンチを回避するための知識を

 快く教えてくれるエリック( かれ )



 信頼と安心のまなざしを向けるミリアの視界の中で、徐々に染まりつつある夕映えを背負ったエリックは軽やかに微笑むと




「カルミア祭の『カルミア』が領花なのは知ってるよな?」

「うん、それはわかる」


「そのカルミアが、オリオン領の領花として選定されたのは約50年ほど前。

 『オリオンの初代頭主・キルヴィス』の妻

 『モルガーナ』が愛していたのがきっかけだよ」


 


 思い出を語るような口調で、指先の火の球を丸める彼。

 最初は話しかけるとすぐに形が乱れたが、だんだんと慣れてきたらしい。


 その『慣れてきた様子』にミリアがくすりと微笑む先、エリックは目を合わせ続きを語る。


 

 

「カルミアの花は、見ての通り、小さな砂糖菓子のような花をたくさん咲かせるだろ?

 匂いも特にないが、その小さな花と広い緑の葉が『多くの夢や希望を抱えている』ように見え『(したた)かに・多くの希望を持て》と初代夫婦は願ったらしい」



「……へえ~……くわしい。さすがオリオンさんの部下」


「……まあ、そうだな?

 ──カルミアは本来、開花の時期は6月頃なんだけど」

「じゃあ、なんで今? 9月だよ?」




 一瞬の困ったような笑顔を、さらりと質問で打ち消して。

 ちらりと見上げるミリアの視界の中で、エリックは落ち着き払った様子で頷き、指の先の火の玉を見つめながら述べる。

 


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