6-13「あっちもこっちも(2)」
つぅん、と張り詰める空気。
密やかに発する、怪訝な刃。
しかしスネークは変わらない。
「ミリアさんも、今まで以上に使いやすくなりますし」
外野から
嗤うように
「そうでしょう? ボス?」
「────…………」
読むのはスネークの腹の内。
何を考えているのか、『愉悦を孕んだ声』で察しはつくが
それを、堂々と言ってのけるこいつが
────不愉快で仕方ない。
しかし。
「────……そうだな」
挑発を孕んだ静寂を断ち切ったのは、エリックの静かな同意だ。
淑やかで落ち着いた声は暗がりを駆け抜け、視界の隅でスネークはにやりと笑い、意気揚々と息を吸い込むと、
「私もミリアさんに堂々と言伝をお願いできるようになりま」
「────彼女は」
”一言”。
「……俺の相棒であり、協力者だ。
余分なことはするなと言ったはずだぞ。
彼女に話があるのなら、必ず俺を通せ」
そこに混ざり込む欲を隠して
端的に言って退ける。
ぬらりした視線も、もろともせず。
「……なら────『打ち明けない』と?」
「ああ」
「どうしても?」
「────ああ」
「なぜです」
「────彼女は。
『相棒であり』・『協力者だ』。
『一般の民だ』。
他に。
理由が要るのか、スネーク」
「……ほう……?」
「────なんだ」
しつこい。
詮索嫌いなのを知っておきながら
揺さぶりをかけてくる天敵に怒りを込めた。
前面に押し出すのは、苛立ちを孕んだ警告。
瞳で表情で圧を込めるが、しかしスネークは変わらないのである。
むしろ、ますます愉快を口元に出すと、するりと後ろ手を組み口を開け、こくりと首を傾げ、
「──────いいえ?
随分と入れ込んでいるわりには……と思いましてね?
告げてしまった方が楽ですのに。
何をしているのかと。」
「────彼女は。
……ミリアは、今や情報収集の要だ。
現に『俺の知り得なかった情報』をくれる。
入れ込んでいるように見えるのなら、そうだろう。
関係を良好に保ち、無理なく情報を得るのが本来の目的なのだから」
顔を背け、腕を組む。
言いながらも瞳を閉じる。
端的・平静に、声を張る。
「──だが、そこまでだ。リスクを考えろ」
「……本当に・それでいいのですか?」
「────スネーク……
────お前、何が言いたい?」
流石に声に殺気を、怒気を孕ませた。
含みのある言い方がムカつく。
なんでもお見通しだと言わんばかりの態度が腹立たしい。
『まるでそれを望んでいるかのような言いように』
エリックは、美しいその顔を嫌悪で研ぎ、腕を組み殺意を向けた。
「────随分と意味深に聞くじゃないか」
「それはそうでしょう、彼女に出会ってから、貴方は変わりました。
そちらの指輪はなんです?
彼女からの贈り物ですか?」
「──関係ない。変わっても居ない」
「あんなに怒るボスも、初めてみました」
「──────……で?」
「柔らかに笑われるんですねぇ、貴方も」
(────『だから』。
何が言いたいんだ、お前は……!)
ああ、これだ。
昔から『こういうところ』が、癇に障って仕方ない。
含みのある物言い・面白がっている態度。
こちらがムキになるように、水面で餌を躍らせるような行為。
『言いたいことがあるならはっきり言え』と口をついて出そうになるエリックだったが、それこそ『思う壺』だろう。
それらを全て飲み込んで、一拍。
エリックは、腹の奥底で渦巻く苛立ちを抑え込み──スネークを睨み吸えると
「────何度も言うが
止めてくれたのには感謝する。
しかし、もう忘れろ。
見たこと全てだ。
いいな」
「………………」
言葉の端々に圧を込めた。
変わらぬ糸目で細やかな笑みを浮かべるスネークとの間、
息も零せぬ緊迫がアジトを支配して────




