6-4(2)「誰々どこどこどこの人♡」
────8月の風も吹き抜ける今日、密やかな戦いが今、始まろうとしています。
ウエストエッジ『ミ・リーア通り「ラボトリー”ピク・ジュリア”」』。
固い机というリングを挟み、両者・気迫は十分のようです。
本日実況解説をいたしますは、この私、マウリオ・ジョンソンがお送りいたします。
さて、選手のご紹介です。
挑戦者は『魅惑のモデル ココ・オリビア』。
『恋愛話の負け知らず』・彼女に捕まり黙秘を貫いたものは居ない猛者ですねえ。
『恋愛話のテーブルトーク』では負け知らず。そして、情報拡散力もけた外れの選手です。
先日、鉄の修道女ロッテンマイルから見事、片思いの男性の話を聞き出しました。
スピード感のある攻撃が売りのおしゃべり令嬢。
本日の気合いもたっぷりです。
対して、向かい受けるは
『孤高の盟主 エルヴィス・ディン・オリオン』。
悪態と辛辣な正論で人を阻む、こちらも負け知らずの王者。
彼の悪態はもはやこの国の名物と言っても過言ではありませんが、エルヴィスは先日『ポロネーズ』の一戦で、『すっ飛びハリケーン ミリア・リリ・マキシマム』に黒星を付けたばかりです。
彼を負かしたミリアの攻撃は一貫性が無いように見えて、徐々に削っていくボディーブローとマシンガン・さらには混乱に陥れる主砲を備えていました。
エルヴィスの不得意とするタイプだったのかもしれません。
────さあ、今日はどうなるのか。
データによりますと、エルヴィスは『猛攻マシンガンに弱いらしい』とのことですが…………?
────おおっと!?
先攻はオリビア! オリビアが仕掛けましたッ!
「何でもないなんてぇ♡
そんなことあるわけないじゃありませんか♡
どこの誰とお揃いですの? それはどこの宝飾技師が拵えたのかしら、素敵な宝石ですこと、さぞ思いの込められたものなのでしょう♡ ねえ、誰とお揃いですの♡?」
「…………」
「やだぁあ♡ 装飾も素敵! もっとよく見せてくださいまし♡ あらぁもお~、隠すことないじゃあありませんか~~~♡ 愛のリング……! はぁ……♡♡♡」
────まぁずは先攻のオリビア!
良い感じで繰り出します!
絶対零度のエルヴィス相手に恍惚の妄想が止まりません!
オリビアは楽しそうですねえ~!
完全に妄想の中、といった感じでしょうか!?
しかしエルヴィスは不機嫌だ!
エルヴィスが口を開きます!
「……だから。『何でもない』と言っているよな?」
冷静冷酷な表情で反撃に出る──っ!!
エルヴィスも崩れない!
冷淡とにじみ出る嫌悪がしびれますねえ、イラついています!
イラついているのが目に見えてわかります!
通常ならここで怯んでしまいますが、
対するオリビアは────!?
「きゃあ♡ まあ♡」
全くひるまない!!
うるるんニコニコスマイルだーーーっ!!
背中が弓なりに反っているーーーーっ!!
「誰とお揃いですの?♡
おりびあ、興味がありますわ♡」
出ましたッ!
必殺『弓なりアゴのせおねだりポォーーズ』!!
ニコニコスマイルだ!
令嬢の微笑み!
興味があると言いつつ目で迫る自白!!
一撃必殺がエルヴィスに降り注ぎます!
こぉの『興味津々な微笑み』に、口を割った挑戦者は数知れず!
──さあ、エルヴィスはどうする!?
「………………」
黙秘だ! 黙秘を決め込んでおります!
沈黙は金! 沈黙こそ勝利!
送るのは氷結の眼差しのみ!
凍え殺す勢いです!
──さあさあこれは強い攻撃を繰り出してきました!
オリビアどうするっ!?
「だれとぉ、おそろいですの??」
────強いーーーーーー!!!
オリビア嬢、怯まない!
全く怯む様子がありません!
エルヴィスの嫌悪にも退きませんねぇ、さすがは『恋愛オタクのご令嬢』といったところでしょうか!? さて、エルヴィスはどうだ!?
「…………」
────あああああ~~~!!
心底迷惑そうだーーーーっ!!!
相当『関係ないだろ』を押し込めているーーー!
辟易を詰め込んだため息が強烈ですねえ、場が凍りそうですよ!
しかし? おっと?
エルヴィスが反撃に出るようです!
さすが辛辣文言アタックの男!
ここで黙っているわけがありません!!
「────揃いで持っているわけじゃない。
それより、広告塔との連携を強固にする話だが」
「はいっ♡ お揃いじゃないってことは、プレゼントですわね???」
「……広告塔との・連携を・強固にする話・だが」
「しかも大切そうに手袋の中におしまいになって……!
傷つくのが嫌なのですね? まあ……!
オリビア感動ですわ? メイシュさまのこんな変化をみられるだなんて♡ お相手は誰ですの? どこのご令嬢ですの? あ、舞踏会で一緒に踊っていらっしゃったあの方?? うっとりと頭を撫でていらしましたよね? オリビア見ておりましたの! ああ素敵! そんなことになっていたなんて〜〜〜♡」
「…………………………………………」
──強い強い強い強い強い!
オリビア女史・止まりません!!
まさに『イチの事からヒャクに増やす女!』
言葉に出しても居ないことまでポンポン飛び出している────っ!
これはまた、ミリア女史やスネークとは違う癖のある女性ですねぇ。
強烈なのが出てきました!
それに対してエルヴィスは…………
「・・・・・・・」
顔が引きつっている────っ!
こ・れ・は!
心底『母・ジュリア』に文句を言いたいという顔だ!!
唇の裏で大量の文言を押し込めている────!!
しかしそこは『我慢の男』!
じっと口を噤んで耐えています。
いやー、エルヴィスは随分とイラついているのではないでしょうか? 怒りのボルテージが上がっていくのが目に見えるようです!! 胃は大丈夫か気になりますねえ!
さあ、どうするエルヴィス!
言い返すのかエルヴィス!
ミリア女史相手なら言い返していますが……!?
反撃しなくていいのかエルヴィス!?
何を考えているエルヴィス!?
おおっとオリビアの追撃です!!
「はあぁあぁぁぁぁん♡
特定の女性とのお付き合いなんて今までなかったメイシュ様が、左指に指輪! これは一大事ですわ!
スコット!
スコット!
セレブレイト・パイを用意して頂戴! メイシュ様のお祝いですのよ~~~!!」
「──────待ってくれ」
────決まった──っ!
シャンパンコールならぬ
『セレブレイト・パイ』コール!!
たまらずエルヴィスの『まった』が入りました!
こぉれには流石のエルヴィスも耐えきれなかった様子! 呼ばれたスコットが慌てて退出していきます!
いや〜しかし エルヴィスは落ち着いていますね?
ミリア女史相手にテンパったのは何だったのでしょうか?
さあ、エルヴィスが切り返します!
その瞳、その表情!
ニルヘイムの氷壁のよう!
産地直送ニルヘイムの氷水を、今!
「────盛り上がっているところ悪いけど。
『そういうものではない』から。
早くその調子を改めてくれないか?
仕事に関係ないよな?」
────流し込んだ──!!
オリーブ油を鍋に注ぐが如く流し込みました!
声が怖い! 声に圧があります!
こぉれはオリビアもひとたまりが──!?
「ね〜えぇん♡
小指にはぁ、りっくんがつけたんですの?」
「──────は? ”りっくん”?」
「あらぁ、その様子だと違いますのね!? きゃあああ、どうしましょう!」
効いていない!
ニルヘイム氷水が効いて居ない!!
ついでに話も聞いていない!
オリビアの”りっくん”呼びに、盟主は呆気に取られている!!
どうするエルヴィス! オリビアは止まりません!!
きゃるるるんスマイルで突き進む────っ!!
「りっくん りっくん♡
左小指のリングは『絆を深めて信頼関係を結びたい』という願いを込めてつける物ですの! 『チャンスを引き寄せ願いをかなえる』とも言われておりますわ♡
そのお方は────!
きっとりっくんに思いを寄せ────!
『……こっちを見てくださいまし……!』と健気で強かな願いを込めたに違いありませんっ……!
まあっ……♡
なんてロマンチックなんでしょう……!」
「……………………いや、違う。」
「違いませんわよ♡
だって『ピンキーリング』を『贈られた』のでしょう??♡
なっっっっっんて強か……♡ 相当な勇気をお出しになられたのね……♡ 殿方に贈り物なんて相当思い焦がれていないと敵わぬこと……!
で、お付き合いなさるの!?
着けてるってことはOKしたのですね??♡
どこのご令嬢ですの!?
おりびあ、知るまでねむれませぇん~~~~♡」
「………………」
────っっっ顔が死んだ────っ!!!
顔が! 顔が死んでいます!!
温度がありません!
真顔です! 冷え切っています!
絶対零度、いや、マイナスを振り切る表情を見せている────っ!!
心底辟易としていますねぇ!
しかしそれも仕方ないでしょう!
なにせあの指輪は、ミリア女史にねじ込まれたもの!
ロマンスのかけらもないのです!
事実無根のオリビアの妄想にドン引きしているのでしょう!
さて、我慢の男エルヴィス・ディン・オリオン!
偽名エリック・マーティン!
今の名前はリック・ドイル!
落ち着き払って反撃スタートです!!




