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1-1「あなた、新興宗教の人なの?(3)」







 声は、唐突に飛び込んできた。 

 渦中の二人が目を向けた先、向かいくるのは一人の青年。 




 年の頃なら20代。黒く短めの癖毛。

 シンプルな白い襟付きのシャツに細身のベスト

。 黒のパンツに、膝下丈のブーツを鳴らして、限りなく黒に近い青き瞳に、明らかな苛立ちの色を宿しているこの男。



 今の名を『エリック・マーティン』と言う。この物語の男主人公だ。






 そんな彼の登場に、内心、驚き声を上げるのは────ミリアである。




(…………う──────わ────……

 彫刻が歩いてるぅ────……!?)




 心の中で響き渡る『引き気味の驚嘆』。


 その外見・まるで彫刻。

 キリリとした勇ましさの中に、幼さも残る綺麗な顔。


 その上、身長もそれなりにあるのだから、ぱっと見非の打ち所がない。




(……こっ、こんな小説みたいな展開ある……?)と動揺するミリア……だが。



 口には出さない。

 ここはしゃべらない方が花である。



(言わない方がいいやつ……! だまっとこ……っ!)




 と胸の内で呟きつつ、とりあえず『言わない』と『緊張』の入り混じった雰囲気で空気を合わせる彼女の前─────



 エリックはナンパ男の「誰だお前」という発言に冷めた嗤いを向け、呆れ返った眼を向けると





「……俺がどこの誰だろうと、関係ないだろ。

 そんなことより……。

 今、君たちがここでしているのは迷惑行為だ。周りを見てわからない?」




 嘲笑うかのように首を傾げ問いかけた。

 出すのは『うんざり』。

 込めるのは『怪訝と侮蔑』。




 初対面なのに挑戦的な物言いで煽る彼だが、それも仕方ない。


 エリックはこの土地を守る立場の男であるのだ。

 閑静な商店街で騒がしい2人は、彼にとって迷惑以外の何者でもなかった。




 エリックは述べる。

 ナンパ男に向かって、まずは牽制と威圧を込めて。




「……ここは道も狭いし、露店も多く並んでいる。

 君たちが少し取っ組み合いでもすれば、商店に迷惑がかかるんだよ」


「…………ハ? 正義の味方でも気取ってんのか、あ?」


「……別に、そういうわけじゃないけど。

 彼女を盗りにきたわけではないから……、その手を離してくれないか?」




 煽りながら、視線で刺すのは「彼女の腕」。掴んでいるそれを辞めろと訴えるエリックの気迫に負けて、ナンパ男が威嚇しながらも気まずそうに手を離す。


 途端手首を握るミリアを視界のすみに捕らえ、エリックは──次に。辟易と呆れを孕んだ眼差しをミリアにも向け(・・・・・・・)言い放つ。





「……俺としては、アンタだけじゃなく、君も。

 二人まとめてお引き取り願いたいところなんだけど?」

「……ちょ、わたしも!?」




 うんざりを煮詰めたような顔つきで言われ、ミリアは驚きの声を上げた。


 『助けてもらえると思ったのにそうじゃなかった』 

(嘘でしょ、こんな恋愛小説展開、あるのか本当に!?)と思っただけに、飛んだ番狂わせを食らった気分である。




 しかし、エリックの表情・態度は変わらないのだ。




「…………君も同罪だろ。

 さっきから火に油ばかり注いで」

「……同罪って……!

 ちょっとひどくない? わたしは嫌だって言ってるのにこいつがしつこいから!」


「嫌なら相手にしなければ良かったんじゃないか?

 それをいちいち答えるからこうなるんだ。

 さっきから見ていたけど、君、最初は愛想を振りまいていたよな? 男がその気になるのも、当然だと思うけど?」


「わ・た・し・は!

 ────…………苦笑いしてたんですぅ!!」


「…………あぁあぁ、はいはい」



 ミリアが放った渾身の抗議に、辟易と項垂れる彼。


 


(「ああ言えばこう言う」な、この女……!)

 と、内心毒づきつつも、その苛立ちをなるべく隠して、エリックは毅然と声を張ると、



「……どちらにしても迷惑だ。

 ……君が困ってるみたいだから助けようかとも思ったけど……、その威勢なら問題なさそうだな?」



 威勢のいい彼女に一瞥。

 挑戦的な笑いを添えて。



「──じゃあ、騒ぎは立てないでくれよ?

 彼女が欲しいのなら、きちんと身なりも整えて、同意を得た上でディナーにでも誘って口説いたらいい」

 「────はっ……!? ねえ、ちょっと……!」


 「へっ?」



 さらりと抜けようとするくせ毛・慌てる彼女。

 そんな流れについていけないナンパ男をよそにエリックは、表情を変えず、黒き瞳で二人を流し笑い口を開いた。





「………………悪かったな? 狩りの邪魔をして。

 とにかくこっちは、暴れなければそれでいいから。

 ……彼女を説得するのは骨が折れそうだけど、応援しておくよ」

「ちょ、ま……!?」



「────ああ、繰り返すけど。

 『あくまでも、同意を得たうえで』、な。

 それさえ得たなら、あとは好きにやってくれ」 





 ミリアの声も軽々と。

 『ああ、面倒だった』と言わんばかりにひらひら手を振り背を向け歩き出すエリックに、ナンパ男が『あ、良いんだ』と理解した、瞬間。







「…………ちょっ…………っと!」


 ────声と共 細い指が引き抜いたはミリアの“足元”。ぺたんこの靴。





「……中途ぉ!」 

 素早く掴まれた靴が 勢いよく弧を描き





「──半端にぃっ!」 

 指先を離れて────── 一直線。





「────たぁあぁぁぁぁすけんなああああああっ!」

 ────ッ タァァァァァンッ!







 渾身の抗議を込めた靴が、遠のく癖毛の背中を打った!



         #エルミリ

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