5-18「暗雲」(3P)
『それとも』に力を入れて。
さりげなく投げた言葉に
彼らの戴く盟主は、険しい顔つきのまま一点を黙り込む。
────彼の、予想通りに。
(……まあ、聞いても答えてはくれないですよ、ね…………)
想像はしていたが、完全沈黙のそれに
胸が空いた。
いつもこうだ。わかっている。
エルヴィスが
『盟主』であり『ボス』であるという立場から、『頼む』『頼る』が容易にできることではないのだろうと、頭では理解している。その性格も手伝い、抱え込む性分であることもわかっている。
しかし、自分が戴く『主君』だ。
『我らが王』だ。
少しでも荷を持ちたいと思うのは、不敬なのだろうか?
余計なことなのだろうか?
(……そんなだと、その内潰れちまいますよ、閣下)
と呟き、憂いを吐き散らす。
古めかしい旧時代から、新しく
今、これからを生きていくために
エルヴィスには『頑張ってもらいたい』。
『なんでもします』と、思っているのに。
盟主はそれを遮断する。
戴く主君に『よせ』と言われたら手を出せない。
そう言われたら、それ以上をすることは──ヘンリーには、できなかった。
幼き頃から
『盟主に仕えよ』と教育を受けてきたヘンリーには
スネークのように煽ることも、面白がりながら焚きつけることも出来ない。ミリアのように忌憚なく想いをぶつけることもできない。
ただ、軽く言葉を投げる程度。
しかし、それを彼は受け取らない。
ヘンリー……いや、ヘンドリック・フォン・ランベルトは
そこがどうにももどかしく、そしてままならなかった。
(────ま、メンツもありますしね。
ボクが出来るのはここまでだよなあ~……
不器用な御人だよ、本当に)
父の憂いも、兄の憂いも、自らの憂いも全て胸の内。
聖堂の天井──夏の夜空を映す、ステンドグラスの向こう側に広がる『昏き青』を眺めながら、そっと。
諦めと悲しみの混ざる想いを、砕き溶かして────
「────手一杯だ……!」




