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5-17「狂った歌劇の舞台上」(3)





「……っに、しても、派手に舞踏会しましたねえ。

 『ネミリア大聖堂で舞踏会』なんてアルツェン・ビルドの先代王以来でしょう?

 しかも、あれは結婚式でしたよね?」



「……ああ。屋敷では収まらくてな」

「でっしょうね〜……この人数じゃあ……」




 驚きと尊敬の混じった声で言われ、二人はちらりと、壁の方に目を配せた。


 足が向かう先は、会場の隅。

 ゆっくりと移動するエルヴィスの隣、ヘンリーは連れ立って歩き出す。




「盟主のアナタが一般からも参加者を募るなんて。

 ……やぁーっとお嫁さん候補探しに本気になったんですか?」

「────そんな風に見えるか?

 だとしたら、おまえの両目は立派な節穴だな」



「いや!」

「──洞察力も観察力も鈍っているだろう。

 とっておきのシゴトを回してやるぞ、ヘンリー」


「ジョークじゃないですか!

 睨まないでくださいよぉ~!

 冗談が通じないお人だなぁ、本当に~っ」


「────へえ。


 これが(・・・)


 睨んでいるように(・・・・・・・・・)見えるのか」

「────いえっ。

 とっっても綺麗な笑顔です」


 

「────……」

「すみませんっす」



 いつもの調子をいつものように返されて、ヘンリーはカオを硬めて謝った。



 エルヴィスから放たれる『貴公子の笑み』の奥にある、言いあらわせない怒気のような圧力を笑い()わす。




 はたから見たら、ドラゴンに睨まれたピクシーのような構図だが──しかしヘンリーは必要以上に萎縮してはいなかった。



 そして、エルヴィスも本気で怒ってなどいなかった。

 



 これらのやりとりは『いつものこと』、なのである。



 エルヴィスに対し、ヘンリーが調子よく絡むのも。

 エルヴィスが、それを『不敬だ』と窘めないのも。


 互いに『ある程度は許容範囲』として、許し合っていた。



 ただし、ヘンリーの方の馴れ馴れしさに、エリックが合わせることは無いのだが。



 

 どれだけ親しみを込められようが、彼らは『友達』でも『知り合い』でもない。



 『上と下』。

 『盟主と同盟諸侯の息子』。


 あるのは、完全なる『主従関係』だ。


 


 エルヴィスとヘンリー。

 彼らは、ドレスの花咲く舞踏会の会場を横切りながら、背を預けられる壁を目指していた。



 途中、テーブルの上で待つグラスが目に着いて

 ヘンリーはそのうす琥珀色のシャンパンを讃えるグラスを二つ、手に取ると


 流れるようにエルヴィスに差し出し顔を向けた。




「でーも。

 知らせを受け取ったときはマジで考えましたけどね?」


「────何を?」

「『あ~のエルヴィスさんがや~~~っと結婚か~』って」



「…………相手もいないのにどうやって?」

「探せばいいじゃないですか! 選り取り見取り!」



「……生憎、探すつもりは毛頭ない」

「閣下がお嫁さんをお探しになっていると考えてるお嬢さんも多いと思いますよ!?」



「────かもな」

「もー、閣下は~。釣れないなー☆」

「釣られるつもりもない」



「ちょっと! いいんですかそんなんで!

 モテるのも今のうちっすよ?」


「別に。困ってない」

「ひゅうー! さっすがリーどぁ」

「──────……………………」



「あっ! ほら可愛い子ちゃん♡ はぁーい♡♡」



 ────張り付けた緩やかな口元は、そのまま。

 誤魔化すように手を振るヘンリーに、エルヴィスはその瞳に呆れを込める。



 そしてそのまま『ああ、またおまえはそうやって』と言わんばかりに眉をひそめると、



「…………ヘンリー。やめないか。

 おまえはランベルトの息子だろう」

「『可愛らしく美しい女性がいたら 口説く!』

 それが貴族の……いや、男の生きざまじゃないですかね?」


「ナンパ野郎と何が違うんだ」

「うっふ……!

 一刀両断……!

 閣下~、……あー、何かあったんですか?」

「…………別に、何も」




 陽気な口調で聞かれ、エルヴィスは笑みのまま、端的に言い捨てた。



 純白の壁に背中を預け、

 すまし顔の瞳に冷めた色を乗せ、

 眺めるのは──『華やかな場所』。





 それに

 こぼし堕とすのは


 『冷めた気持ち』だ。


 




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