表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

287/592

5-16④「ミリアさんが調べておいてあげましょう」









「……〜〜っ!!

 なーんか、だーいじょーぶかな〜!?

 あああああ! 気になる!」



 わきわきっと、もどかしそうに指を動かしながら、肩をすくめてミリアは言う!



「ああいうの気になる! すごく気になる!

 『痩せ我慢』っていうか、

 『無理やり封印しました感』見せられると、どぉーも!

 『無理するな〜! だいじょうぶかー!』って言いたくなっちゃう〜っ。

 いや、あの人のことまだ全然知らないよ?

 知らないんだけどね!?」



 葛藤を虚空に散らかして、ぎゅうっと握る、右の手のひら。

 自然と背筋が伸びて、ふうっと息出す鼻と、そして寄り()く眉。




「…………無理に聞いたりは……しないケド。

 たまーにひっかかるんだよねー、奥の方になんか、こう……

 なんだろ? うまく言えないけど、こう……

 『抱えてる感』あるというか……」



 


 呟く彼女はまだ、知らない。


 彼が背負っているものも

 彼が抱えている悩みも、葛藤も


 

 知らないながらも、考える。

 ”見えたものの範囲”から。



(…………戦ってるような。

 押し込めたような。

 無理やり切り替えたような。

 ……そんな……なんか、そんな感じ……)




 情報を、処理するように

 ぽそぽそと。




「…………まあ。無理には、聞かないんだけど」



 これは、声に出して。

 彼女は瞳を左下に迷わせた。



 気になるといえば気になるのだが、やたらと手を突っ込んで根掘り葉掘り聞きだすのも好きじゃない。

 エリックがそこまでして切り替えたのなら、そこを掘り返すのは違うだろう。






 ──誰しも、気持ちに折り合いをつけながら生きていく。

 そうして、日常を暮らしていくのだから。





 そして彼女は短く息を吐き出し、流れるようにカウンター奥の『相棒人形スフィー』に目を向けた。


 


「…………誰だって、言いたくないことあるじゃん。

 そうじゃない?

 ねぇ? スフィー?」

 


 言い聞かせるように、ぽそり。

 物言わぬスフィーに、ミリアは小首を傾げて話し出す。



「ねぇスフィー?

 エリックさん、エルヴィスさんの下で働くの、実は大変なのかなー? やり手の盟主さまだもんね、付いていくの大変なのかも。


 そのうえ、毛皮の調査までやっててさ?

 エルヴィスさん、人使い荒いのかな。


 まあでもあの人『ふふん』って言いながらやっちゃいそうだけどね〜。

 『当たり前だろ?』とか言ってさ。

 でもちょっと心配じゃない?

 わたしにも『助けてあげるよ』とか言うんだよ? わたし、マジェランなのにね?」



 物言わぬ少女の人形に、ミリアの独り言は止まらない。



 くるりと瞳を宙に泳がせ

 トトン! とカウンターを指で突き

 頬杖に、鼻から吐き出した息を感じつつ、呟く。


  


「……はあ〜……


 『エリック・マーティン』。


 ハイスぺだからか? 影の見える男……」




 トン・トン・トン・トン・トン・トン……

 …………し────ん…………



 ────ふうっ。




「……はあ〜、旦那さまに使い殺されなきゃいーけど……」




 『パワーのある』『やり手』の『エルヴィス盟主』に

 こき使われ、疲れ果てていくエリックが目に浮かび、口をへの字に曲げた。



 胸の内

(さぞ大変だろうな、エリックさん)とも思いつつ。

(でもエルヴィスさんも、あのおにーさんを側近に置くって、小うるさいと思わないのかな……?)とも思いつつ





 徐々に流れていく気持ちが、次にたどり着いたのは



 心配のようなものだった。




「…………相棒とか、いればいいけどね~……」



 こぼれるそれに、反応して

 エリックが脳内に蘇ってくる。




 『そうだよ、君を選んだ。

  俺の、パートナーにね』

 『君ならできると思ったんだけど』




「……………………”パートナー”。


 …………………………あいぼう。」

 



 呟く。



 『君ならできると思ったんだけど』

 『ああ、頼むよ』





「…………そか。『相棒って、わたし』。」



 確かめ、噛みしめるように呟いて

 心の中に広がるのはわくわくした気持ち。

 


 ────声に、喜びが混ざっていく。




 ────他人(ひと)からの信頼は

 何より心を満たし、そして


 活力になる。



 

 


「……ふふっ。

 お屋敷のお仕事はさておき。

 『毛皮事件』の相棒は、わたし」



 ご機嫌だ。

 ご機嫌に頬杖をつき、足までフンフンと揺れてしまう。



 カウンターの奥、座り動かない相棒スフィーを覗き込み、ミリアは照れくさそうに微笑んだ。



「えへへ、スフィーの他にも相棒できちゃったっ。

 ちょっと嬉しいなっ、……ちょーっとだけね?


 もちろん、スフィーも相棒だよ?

 いつもいっぱい話聞いてくれてありがとね!」




 ────さあ。明日は休みだ、仕事もない。


 昼まで寝ていてもいいのだが

 そんな休日に、『相棒のために』


 ────なにか、できることはないだろうか?




「…………うーん……」


 腕を組むミリアの頭の中で、ここ数日の出来事が目まぐるしく駆け巡り────




   『ボーンって、……何からできてるんだろ?』



「──────”ぼーん”!」




 思いついたのは『ボーン』の素材の話。

 前から触っていたのに、疑問にも思わなかった『作り方』。



「……ボーンの値上がりも、もしかしたら関係あるかもしれないしね~。どうせ舞踏会の後片付けとかあるんだろうし、忙しそうだし~♪」




 言いながらふふんと鼻を鳴らして胸を張り、カウンターを回り込む。




「じゃあじゃあ、忙しい相棒くんのために、ミリアさんが調べておいてあげましょう♪」




 ご機嫌な声で言いつつ、カウンターの下。

 分厚い業者カタログを引っ張り出して



 ばらばらとめくり探す、『ボーン』の業者。





「────えぇ~~っと?

 ボーン作ってるトコどこだっけ?

 メーカーの住所は〜〜〜」




 ばらばらばらっとめくる指が、探す目が

 ほしい情報を捉えて、ミリアはご機嫌な口調で読み上げた。




「────あった!

 『ボーン工房 イザベラ』

 アルトヴィンガ地区・スモーキー通り8093!」

 











 


         #エルミリ

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ