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5-16③「ミリアさんが調べておいてあげましょう」



「……責任感、あるよね。」



 思い出して呟く。

 それは、ミリアから見えたエリックそのものへの感想だった。


 むくれた頬から空気が抜ける。

 いつも通りに戻ったビスティーの景色が、先ほどより柔らかく感じる。



 オリオンの家の者として、手伝いを買って出た。

 オリオンに仕えている者として、仕事も全うしようとしている。

 彼の端々(はしばし)から見える『旦那さまへの忠誠心』。



 ────出会った時の『あいつ』とは、全然違う。


 『悪かったな? 狩りの邪魔をして』

 『別に、彼女を獲ろうとしているわけじゃない』

 『後は好きにやってくれ』


「────なんて言ってたけど、でも」



 ぽそりと呟く声に混じるのは、理解と親しみの色。

 瞼の中、くるんと流れる、ハニーブラウンの瞳も優しく、動くホウキの毛先も穏やかだ。



「…………なんだかんだ、たすけてくれるひと。『最終的には助けちゃう』。そんな人だ、エリックさんって」



 『命を賭ける』と言い切った。

 『手伝う』と申し出た。

 『力をつけないと』とも、言っていた。


 その言葉から感じ取れる、彼の『きちんとした性格』に、ふふっと頬が緩む。



(──意地も悪いし、イライラを隠さないし、人を揶揄って大笑いするし、だけど、真面目で、────それで)

(…………それで)



 穏やかさに、一転して広がり過るは彼の棘。

 なんのことはない、コルトとの談笑のあと。

 怪訝を交えて聞かれた言葉。


 

 『なんで、皿?』

 『は?』

 『デリバリーサービスでも始めたのか?』



 矢継ぎ早の質問に、少し驚いた。

 しかし、正直そこはあまり気にしておらず────、ミリアに焼き付いていたのは『そのあと』だった。



 覚えのない怒りに戸惑い、聞いた言葉に返ってきた『………………別に』。明らかな不機嫌と苛立ちを纏ったそれは、僅かな時間で正反対の声色(・・・・・・)()で返ってきたのだ。



 『────さ! ミリア? 片付けてしまおうか?』

 


 まるで、一瞬にして人が変わったような笑顔に言葉を失った。

 目の当たりにした声のトーン(・・・・・)と、顔の作り方(・・・・・)にただ、驚いた。



「──────〜…………」


 あの瞬間、彼女は迷った。


 『どうしたの?』と声をかけようか、疑惑の瞳を向けようか、──それとも、流そうか。


 結局彼女は『流す』を選んだのだが、あの『無理やりな話題変更』は、ミリアの脳に色濃く、焼き付いていた。



「…………なんか…………」



 じわりと中央に眉が寄る。

 ぐ……っと唇に力がこもる。

 そして、漏れ、こぼれる『独り言』。



「……あれって、すぐできること……? 怒った原因、わかんないけど、でも、あの変わり方(・・・・)……、あれって、すぐにできるもの(・・・・・・・・)?」



 ──垣間見えるソレに、考える。

 怒りも喜びも、なかなか切り替えるのは難しい。高揚はしばらく自分を捕えて離さないし、怒りは何度でも蘇ってくるのが感情というものだ。特に、怒りなど、いくら気持ちを平坦にしようが、あきらめようが、胃の底に落としケリをつけるまで時間がかかるというのに。



「……我慢してる感じある……『押し込めるのに慣れてる』? っていうか…………だって、あの時………………絶対、怒ってたのに…………」


 

 彼は、何も言わなかった。

 理由があるなら言ってくれて良かった。

 だから『なんで怒っているのか』と聞いたのに、逆に向けられたのは『優等生』の顔。


 まるで激しく突き放すかのような・笑顔。 



「…………あんな、薄氷(うすごおり)みたいな」

「貼り付けたみたいな……」

「…………あの人…………」



 し────ん……と静まりかえった店内に、ミリアの不安げな息遣いが溶け、消えて────







 


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