5-11「また、つくって」
──ええ……!? あなたも、魔道士に……!?
「エル&ミリー 副業盟主とコメディ女」が
ファンタジーアプリになって登場!
(※出ません)
マジェラの魔術を
あなたのスマホでロジック展開!
Elementを組み合わせて
TYPEを定義!
組み立て魔法でハイスコアをめざせ!
ええ!?
ファイアとウォルタを混ぜると……!?
ええ!?
ウィンド・ウィンド・ウォルタでそんな技が……!?
レベルが上がれば上がるほど増えていく構築式!
さあ! 君の構築式を見せつけろ!
オンラインパーティーで「俺たちTSUEEEEEEEE!!」
オフラインモードで修羅の道も目指せるぞ!
書下ろしストーリーも満載!
ミリア先生とエリック先生、君はどちらに教えてもらう?
爽快! ロジック・エレメンツ!
『マジカルロジック・ストライカー』!
────先行登録で、ガチャ100連プレゼント!!
※虚偽のCMです
────はぁ〜〜〜〜〜〜……
ウェストエッジ・街中の旧街道・チェシャー通り。
西の空に日が落ち始め
街がそろそろ鮮やかなオレンジに染まる頃。
エリックは、忌憚を込めたため息を漏らしていた。
あまりにも大きなそれに、周りの人間の視線も集まるが気にしない。
悶々。ぐるぐる。一人、歩きながら考える。
────そう。『一人』。
一緒にいたはずのミリアはいない。
先ほどまで一緒にいた彼女は、一足先に店へと引き上げたのだ。
──時は、今より少しばかり遡る。
ウエストエッジ・郊外。
エルヴィス・ディン・オリオンの私有地内で魔法カードアタックを繰り広げた彼らは、経過した時間に気づいて、街へ戻ることにした。
ミリアは本来、修羅場の真っ最中。
こんなところで油……いや、魔法を撃っている場合ではなかったのだが、それも後の祭り。
過ぎてしまったものは仕方ないと
慌てて引き上げようとしたが、エリックはミリアにNGを食らった。
原因は、服である。
一箇所で水と風の技を打ちまくり
一切の汚れを被っていないミリアに対し
ミリアの術でどんどん泥濘んだ草原を
飛んで・跳ねて・駆けて避けていたエリックの服は
当然、泥や水が跳ね飛び
縫製工房に入れる格好ではなくなっていた。
────通常なら泥まみれの格好でビスティーに入ろうなどとは思わないエリックだが
あれだけドンぱちあった後だ。
いろいろなことに気が散って、言われるまで服の汚れに気づかなかったのである。
指摘を受けて苦笑いをするエリックに、ミリアはぴしっと指を刺し言い放つ。
『着替えてきたらビスティね?
今日は閉店まで手伝ってもらうからよろしくっ』
と、言い残し駆けていった彼女の背中が、エリックの脳裏にちらついて────
────はあ…………
もう一度、大きく、深くため息をついた。
彼のため息の原因は、もちろん。
最後の『魔法ミス』だ。
彼は光魔法を放つつもりが
呼応しないそれに慌て、混乱した時
代わりに発動したのは、コールしていないはずの『風』。
ミリアの足元から、緩やかに吹き上がるちょうどいい風は
男なら見えて嬉しい部分を見せてくれたが
彼、エルヴィスは内心複雑であった。
とても、とても。
(────……10代の子供か、俺は)
心の中で呟き、自分を嗜なめる。
閉じた瞼の裏、蘇ってしまうのは先ほどの事。
────ふんわりと。
捲れ上がったスカートや、レースインナーのペチコート。
しなやかで、日焼けしていない白い脚。
普段は見えないその部分。
────それを
「…………」
思い出しては、眉間に皺。
トラブルとはいえ、『たかがスカートの下』に目を奪われた自分が情けない。
女を知らないわけじゃない。
むしろ、その辺の庶民の男より、数多くを経験している自信があった。
────のに。
(────思い出すな。
今考えるのは、そこじゃないだろ)
自分自身に、硬い口調で言い聞かせ、
思い出そうとする思考を無理やり抑え、切り替える。
彼が無理やり脳から引っ張るのは、『暴走の原因』だ。
振り返るように、反芻するように、頭の中をいっぱいにする。
(──結局、最後のあれについては……
カードが重なってたことで起こったミスだってわかったけど)
呟きながら思い出すのは『あの原因』。
戦闘中、彼が慌てて引き抜いたカードは
光の下にもう一枚
ぴたりと張り付いた風があったのである。
それを確認し、ミリアは
『……あー、使ったことのある方が先に出ちゃったのかなー?』と首を傾げていた。
──まあ、その後、すぐに繰り出された
『パンツ見えたとか気にしてませんし。』
『ほんとほんと、全然気にしてない。』
『うんあの、気にしていないので。』
『見たとは思うけど気にしないし。うん』という────
『真顔で繰り返されたある種独特な平常運転は
逆に、彼を所在なくした──のだが
それも含めて、浮かべるのは苦笑い。
流れるように考えるのは、『魔法』と『今まで』の違い。
彼は成長の中で、遊戯や学問・運動をこなしてきたが、魔法については毛色の違いを感じていた。
別宅で着替えを済ませ、装いも新たに
旧街道・チェシャー通りを行きながら口を閉ざして問答する。
(……扱いには、本当に注意が必要だな……
慣れていない分、焦ってミスも多くなる。
簡易魔導書を少し読んだだけでは……)
うぅん、と唸り、思わず組む腕、ゆがむ眉。
しかし次の瞬間、わずかに首を捻って考える。
(──いや、でも、初めてにしては上出来だったんじゃないか?
準備もなしにやれと言われたわけで。
……ミリアも考えなしだよな、あれで、俺が遠慮なく攻撃を当てるような男だったらどうしてたんだ?)
と、状況を整理しながら、歩くエリックのその脇を、すっと素早く駆け抜けていく影が二つ。
背の低い影を追いかけて、エリックがふと目をやった先、この町では珍しい子どもが二人。
通りの真ん中でふざける彼らの、大きな声が飛び込んできた。
『おれ、しょうらいかっけー騎士になるんだ!』
『じゃあおれは めいしゅさまぁ!』
『めいしゅさまは
きぞくじゃないと なれないんだぞ!』
「────……」
はしゃぐ声。思わず止める足。捕らえる姿に、言葉を無くす。
通りの真ん中で遊ぶ子どもたちは、とても楽しそうだ。
まるで永遠の時を楽しんでいるかのように、声を弾ませ戯れている。
身軽な身体。無邪気な声。
夢に溢れているであろう顔に、汚れも知らないあどけなさ。
8月の、徐々に夕暮れに染まりゆく空の下。
オレンジ色の光が照らす商店街を駆けていく────
──これほど穏やかで、未来を感じる光景があるだろうか。
そして、これほど『気を引き締められる思いになる』光景があるだろうか。
年々少なくなっていく子どもの数。
女性も自立し国内の生産性は上がったが、みるみる目減りしていった出生率。
今はまだそうでもない。
しかしこの調子で下降の一途を辿れば、国としての繁栄どころか衰退────滅びゆくことは目に見えていた。
『今の問題』は
『いつか、自分たちに負債となって返ってくる』
『そして、その負債は子どもたちに課せられることになる』
(────……なんとかしなくては)
そう呟いて、
無邪気な時間を楽しむ子どもの影を振り切るように
踵を返したエリックの脳内に、ミリアの言葉がよぎっていく。
──『集団で育てたらいいのにね』
(……それも、一理ある……けど)
彼の常識が囁く。
──『けれど、”家柄”は大事だろう?』
そして芽生えた疑念が問うのだ。
──『本当にそうか?』
年頃になってから、ずっと。
彼は、大柄の執事ヴァルターに言い含められてきた。
『いずれは旦那さまも結婚を』
『お相手には、オリオンにふさわしいお方を』
言われるたびに『そうだな』と、言い聞かせるように頷いてきた。
『オリオンにふさわしい家柄の女性を娶り』
『ふさわしい環境で子を拵え、家督を繋ぐ』
それは、当然のことなのだろうが
裏を返せば『家柄と素養が揃えば、本人たちの気持ちなど度外視』ということになるだろうと
冷めた気持ちを向けていた。
そしてそれは、今。
疑問となって彼の胸の奥底に生まれ始める。
『家』『家系』『血筋』『家督』
『婚姻』『結婚』『出産』『子育て』
『集団で育てたらいい』
『家柄は大事だ』
『トラブルになるぐらいなら最初からそんなもの』
『夫婦となり、由緒正しい教育を』
「────…………」
渦巻く頭の中。
まとまらぬ思考とは裏腹に、足はせっせとビスティを目指し石畳を踏んでいく。
(……どちらも、生き物としての在り方としては……間違っていないと思うけれど)
と、ため息混じりに呟き視線を落とした。
ミリアはあっけらかんとああ言うが
人が古来より『婚姻』と言う契約を結び、『家族』というコミュニティを形取ってきたのには、なにかしらの理由があるのだろう。
”個人”に執着する理由については解らないし
”他人”の交友関係に腹を立てる理由もわからない
そもそも『妻だろうが恋人だろうが人であり、モノではない』のだから、自分のものだとかそういう感情が出てくるのも、理解不能だ。
しかし周りの貴族で揉めているのも『よく知っている』。
浮気・不倫・内縁・隠し子。
それらの問題で大火傷をおった貴族も少なくない。
(──まあ、シンプルに”契約違反だ”と激昂しているのかもしれないけど?
ならば契約を切ればいいだけの話……だろう)
見聞きした愛憎劇さえ、冷淡に呟きつつも
(……きっと、そういう単純なものでもないのだろう)と、考えが固まっていく。
他人のことなどわからない。
愛恋も執着もよく知らない。
自分には愛情などと言うものはないのかもしれない。
────しかし。
(……まあ、なんにせよ)
────”この国を、滅びへと導かないために”
(…………俺がまず、婚姻を結ぶべきなのだろうが──)
そしてまた、悩ましげに。
重々しく息を吐く彼の、暗き青の瞳がふと、捉えたのは
総合服飾工房ビスティーの店構え。
「…………、」
──ああ、少しホッとする。
もはや馴染みの場所になったビスティの店構えが優しく感じて、胸を下ろした。
closedの吊るし看板の向こう側。
待っている修羅場と、相棒の姿を想像しながら。
エリックは、そのドアノブに手をかけて────
「……あはははは! ちょっと、それはないでしょ!」
(……?)
そっと開けたドアの隙間。
聞こえてきたのは、ミリアの陽気な笑い声。
親し気で楽しそうなその声に、エリックが瞬時に『相手』を想像した時。
「…… だ ぁ っ て。
『しめきりー! しめきりー!』って
う る っ せ ぇ ん だ も ん 」
聞き慣れない男の声は、彼の耳に容赦無く飛び込んできた。
────その。
太く、馴れ馴れしく、ダルそうな声にエリックは黙って扉を引く。
見慣れた店内、カウンターの奥。
音を立て締まる扉を隣に、視線を投げると
ミリアとカウンターを挟んで話していた男が
エリックに、気づいた。
「……な あ 。 み っ ち ゃ ん 。
おきゃくさん。
きたっぽい」
(……────『みっちゃん』?)
ぴくんと跳ねる 目尻。
黙るエリックが見る世界で、ミリアと男の会話が展開していく。
「”おきゃくさん”?
……ああ〜、『お客さん』じゃないよ〜、でも、帰る?」
「あ ー ……
ん ー ……
どーすっかな〜……」
カウンター外・ミリアの前を陣取って
低く声・やる気のない音を出す男のその、風貌。
ひょろりとした長身。
怠そうな猫背で、全体的に覇気がない。
金の長い髪を縛りもせず
この街で暮らしているとは思えないほど服を着崩している男は
心底興味の無さそうな蒼い瞳でエリックを一瞥し、目をそらした。
視線が語る。
──『だれ こいつ』。
────そんな、男の態度と、今のこの状況に、一拍。
彼は静かに 声をかける。
「……ミリア? そちらの方は?」
「あ、えーと」
平静を装った声掛けに、ミリアの意識がこちらを向いたとき
「み っ ち ゃ ん 。
おれ 帰るわ〜」
遮るように男が口を挟み 視線を 攫っていく。
「あ、帰る?」
「 ん ー 。
……おやじ 、 怒るし」
「あんまりお父さん怒らせちゃだめだよ~?
……わたしの言えることじゃないけど~」
「 へ へ 。みっちゃん、緩いよな~」
「………………」
────やりとりに 意識せず 目と、腹の奥。
力が篭る。
「みっちゃん、じゃあ ね────?」
「ああ、うん、ありがとね!」
「………………」
興味の無さそうにカウンターを離れ
ひらひらだらりと手を振る男と
それを目で追いかけ、手を振るミリア。
ビスティの奥から男が来る。
興味の無さそうな青い視線と、探る暗い瞳が交錯し────
「…… あ。
そう そう。
み っ ち ゃ ん。
あれ、うま・かった」
(…………『美味かった』?)
すれ違いざま、ふんわりと鼻についた革の匂いと
肩越しに放った言葉に、彼がぴくんと眉を寄せた時。
「……ひひ。
また つくって ?」
(…………──『つくる』?)
男の無邪気な声が、随分と大きく
エリックの神経に届いた。
それに気づくことなく、ミリアは陽気に笑う。
「あ、気に入ったー?
いいよ~、お安い御用ですとも♪」
「おん。
みっちゃんの あれ まーーーじ うまい。
ぷりんって やつ。
……へへ。
おれ、あれ、好きだわ〜」
(……………………は?)
「美味しいでしょ? 味は自信ある!」
「まじうま。 やばい。 また・よろしく~」
「うん。道、気を付けて!」
「あ────〜い。ふぃるにんー」
「フィルニンー♪」
かわされた挨拶。
ギッと音を立てて閉まる扉。
扉の向こうに消えた金髪男を見送って、
「ふっふー
『親怒らせるな』とか、わたしの口から言いますか~」
と、カウンターで頬杖を突き、苦笑気味に笑うミリアは、気づいていない。
甘い甘いそれが
今
密やかな火種を生んだことに。
#エルミリ




