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5-4「小指の約束」







 修羅場のビスティーから一時離脱して、ポロネーズでおしゃべりをし、タンジェリン通りでブーケを受け取り大笑い。




 はたから見たら、まるでデートをしているような二人だが

 ミリアとエリックにそのような気持ちはまるで無く────



 次に二人が訪れたのは『郊外』。

 ミリアに『誰もいない広場(とこ)、知らない?』と聞かれ、エリックが選んだのは、”広大な敷地の中”だった。





 エルヴィス・ディン・オリオンの『私有地』。

 文字通り『彼の庭』である。



 とはいえ、柵や壁があるわけではなく、守衛などに会わなければ『領主の土地』であることも気がつかない──『立派な草っ原』だ。



 

 適度な木々が人目から二人を隠し

 そしておあつらえむきの『座れる岩』がある場所で────

 ミリアの『カード講座』が、今まさに始まろうとしていた。


 


「……いい? エリックさん。

 言わなくてもわかると思うんだけど、絶対!

 絶対に、人前では使わないでね?

 どう映るかわかんないんだからね?」

「ああ、もちろん」



「使うときは、わたしと一緒に使うこと。

 このカードの使い方、他人には言わないこと。

 約束してくれるよね?」


「約束する。

 ……というか、聞くまでもないだろ? 

 俺と君だけの、秘密だ」



 いつになく真剣に、そして懸命に言うミリアに

 エリックは口元に笑みをたたえ、唇に人差し指など当てつつ、素直に頷いていた。




 ミリアの『真剣』が妙に口元に効いてくるのか

 それとも『新しく学ぶ事柄』に心が躍っているのか

 

 どちらかはわからないが、

 エリックは、その緩みそうになる口の端に”ぐっ”と力を込める。


 

 胸の内の高揚をなるべく出さぬよう

 『真面目』を装う彼の前、ミリアは勢いよく小指を突き出すと、




「よし! じゃ、小指出して?」

「────ああ、『小指の誓い』?」



 国が違うとはいえ、意図をすんなり汲み取り、すっと出る小指。

 こういう『まじない』も、大人になってからはあまり経験がない。

 正直子供じみた行為だが、今のエリックには抵抗はなかった。




 交わし、差し出す細い指。

 太さの違う指が、二人の間で絡まり────




 ミリアは、”すぅっ”と勢いよく息を吸い込むと



「──さん、はいっ!

 こっゆびっの やっくそっく!

 ぴっぴっぴっ!」

「…………ぴ、

 『ぴっぴっぴ』?」



 飛び出たそれに、エリックはまともに困惑の声をあげた。

 瞬間的に顔が半笑いになる。

 マジェラの『エレメンツの歌』といい、妙に力が抜けるのだ。



 瞬間的に脳に蘇る

 『うたってたのしい えーれーめーんーつー♪』に、緩む頬を固めた時。




 ミリアは真面目な顔つきで、『あれ?』と首を傾げると、



「”ぴっぴっぴ”。

 言わない? ”ぴっぴっぴ”」


「えーと……、『言わない』、かな。

 こっちでは、その、聞いたことがないよ」

「これ世界共通じゃないのおおおお……!?」


「……揚げ物も共通じゃないのに?」



 言いながら立ち上がり、『NO!』と全身で表しながら頭を抱えるミリアに、エリックは半笑いを潰しきれずに相槌を打っていた。



 ……こう、いちいち気が抜けるのだ。

 彼女の動きも小動物のようで見ていて飽きないのだが、出てくる言葉がそれを加速させる。



(……緩いというか、可愛らしいというか)

 ──と。胸の内。

 エリックが地味に『それ』を内包しつつ。



 表面上ではくすっと小首を傾げるその先で、

 彼女は愕然としながら『それもそうか、そっか、そっかー』と細かく呟き頷いている。



 全身で

『そっかーわかんなかったなあ、そっかあ!』を表す彼女に


「…………ん、こほっ」

 と、緩む口元を右手で覆い隠し、こっそりと笑いを逃した。





(……まずいな、口元が耐えきれない)

 


 ────『国の違い』か『国民性』か。

 それともミリア自身の個性なのかはわからないが、それらに『目的』が霞そうになる。



 『調査』だ。

 『相棒』だ。

 そして今から『教えを受ける』のだ。

 ────遊びに来ているわけではないし、彼女との会話を楽しむデートをしているわけでもない。




 ────のに。


(────いや、しっかりしろ……!)

 と、じわじわと込みあげるソレらを押し殺しながら、右手で口元を覆うエリックの前。



 ミリアは納得したように『はぁ、』と短く息を吐くと

 ぐっと眉を下げエリックを見上げ、こくこくと頷きながら言う。



「……そうだよね、揚げ物も驚いたもんね。

 そりゃそっか『小指の約束』も違うよね〜。

 ちなみに、こっちではなんて言うの?」

「────ん? あぁ……」



 問われ、エリックは小さく目を見開いた。

 今度は彼が披露する番である。




 彼女の『ぴっぴっぴ』はとりあえず頭の奥に。

 知らない彼女に、きちんと見せるために。


 エリックは、まず自身の呼吸を整え、すっと背筋を伸ばし──



 静かに

 (おごそ)かに ()う。




「──『誓います。女神ミリアの御許(みのもと)に』」

「…………ほわ…………

 さすが女神と聖騎士さまの国…………」




 彼が放つ雰囲気と言葉に、『──凛』と。

 ただの草原が聖地になったような気さえして、ミリアはほうけた顔で呟いた。




 同じ『小指の約束』でもこの違い。

 無意識に伸びる背筋・目の当たりにする『女神の徒』。



 ──”気”が、空気が引き締まる感覚に

 ミリアの瞳は自然に輝き、そして気持ちは漏れこぼれた。




「……そういうところも、おしゃれで大好きですね」

「うん? なんの話?」

「『この国が好き』って話〜♪」




 言うとミリアは、ご機嫌な様子で軽やかに身を翻した。


 ふわっと持ち上がったスカートのように、気分がいい。

 自分の故郷が嫌いというわけではないが、今まで知らなかった『奥の方』が見えて──

 

 ご機嫌が溢れてくる。


 


 彼女は勢いもそのまま、ふわりとエリックの隣に腰掛けると

 彼の手元。



 『魔法元素(エレメント)カード』に手を伸ばし、さっと掴んで蓋を開き──



 ────ぴたっ。


 止まる。





 ”うん?”

 ”…………あれ?”



 カードの箱を開き、きょろきょろ。

 箱を裏返し、覗き込み、振ったりして。


 首を傾げまくるミリアに

 エリックが思わず『どうした?』と声をかけそうになった、その時。





「────ねえ、あれは?」

「ん? あれ?」



「指輪。ついてたでしょ? 付属品のヤツ。

 指輪出して?」


「──────指輪?」






 ぺらっと手を出され、求められて。

 エリックはまたも、目を見開き繰り返したのであった。






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