1-9「仮面を外さぬ男の話」
何事にも 表があれば、裏がある。
ウエストエッジ・商工会議所──奥。
人の寄り付かない通路を抜けて、本の匂いと少しのカビ臭さが漂う書庫の角。
スネークは、一台の書架に手をかけ、ごろりと横に流して道を拓いた。
現れるのは隠し通路。
奥に伸びるは石造りの暗闇。
到着の連絡を受けて、奥を目指し足を進める。
石造りの通路、足元を照らす『魔具ラタン』の明かりもぽつぽつと。明らかに『意味深』な通路を、彼はすたすたと抜けていく。
彼・スネークにとっては、ここを抜けることも大したことではなかった。
出勤・退勤と同じこと。
表から裏へ。
その、橋渡しをするのも『彼のシゴト』だからである。
カツンカツンと靴を鳴らし
足元をちらつくネズミを気にも留めず
重厚な木造りの扉に手をかけ
────声を張る。
「────”ボス”、お客様ですよ」
『…………ああ』
声かけに返ってくる”ボス”の声。
低く、重く。
威圧を感じる声に、スネークは少しばかり息を吐き────中へと踏み込んだ。
煌々と室内を照らすいくつもの魔具ラタン、奥の棚に並ぶアルコール類と、粗雑に積まれた書類の山。
潰れたバーを改装したその部屋の
中心に置かれた、重厚感のあるテーブルの奥で
黒い革張りのソファーの上
どっかりと腰を下ろして足を組む男に歩み寄る。
「────お呼び立てして申し訳ありません。
なにしろ、あなたをご指名でしたので」
「…………客は?」
「こちらに招き入れるつもりでしたがねえ〜、怖かったのでしょう。
これだけ預けて、帰ってしまいました」
”ボス”の声かけに肩を竦めた。
言うスネークの声は「愉快」を描いたようだ。
彼は、糸のような瞳をわずかに開けて微笑を浮かべ、
まるで楽しむかのように、封書を指で挟み、歩みを進めながら口をあけると
「…………来られたのが14ぐらいの少年でしてね?
いや、さすがですね、綺麗な子でしたよ」
「…………余計なことはいい。依頼主は誰だ」
『話題作りに』と振った言葉を一蹴され
スネークはしかし、それすらも愉快だと言わんばかりに鼻で笑い、述べた。
「────”上客”です」
告げるスネーク商工会組長の 視線の先。
どっかりとソファーにかけるその男。
上質のブーツに、黒のパンツ。
短剣のささった腰の革ベルトはシンプルに。
黒のベストに、白のシャツ。
短い黒髪には癖がある。
その顔面で光るのは
魔具ラタンの光も吸い込むような
限りなく黒に近い 青き瞳
ちらりと見えた深緑の封蝋に、ボスと呼ばれた男のこめかみが震えた時。
スネークは、封書の宛名を読み上げた。
「……『親愛なる エリックへ』
”御指名”ですよ、”ボス”」
薄暗い部屋の中。
スネークに呼ばれた男こそ。
ミリアに靴を投げられた青年
エリック・マーティン その人であった。
──何事にも 表と裏がある。
これは、仮面を外さぬ男の話。
この番組は
主人公エリックの頑張りと
ヒロインミリアのマイペースで
お送りしております
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