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4-18「たすけて、くれるの?(1)」










 場所はビストロ・ポロネーズ。


 さらりと有能さを見せるエリックに、ミリアは頬を膨らませた。






「────頭良くて腹立つぅ~……」

「ふ……!

 ──まあ、覚えるのは得意な方だよ。

 …………そうでなくちゃいけなかったからな」


「…………うんっ?」


「────それより、これ……少し借りてもいい?」





 穏やかなしゃべりの中の『最後』。

 吐き捨てるように落としたそれは、ぼっそりと

 テーブルの上だけにこぼし、砕いて。



 魔導の教科書を前に、エリックは甘えるように問いかけた。







 口の中だけで呟いた音にミリアが目を丸くした時には

 エリックは、何事もなかったかのように澄ましている。



 ────その『見えたようで見えない何か』に

 ミリアは一瞬、瞳を迷わせるが、




「え? あ、良いよ?

 読むの? 使えるようになりたいとか?」


「────知識として入れておきたいだけ。

 前に言ったよな? 魔具には興味があるって。

 旦那様のこともあるし、知識を広めたいんだ」




 問いかけに、返ってくるのは『興味』。

 彼から滲み出るのは『勉強したい』という真摯な気持ち。

 ────だが。

 


「…………でも、知識として入れただけじゃあ……それで役に立つの?」

「立つよ」



 少々迷って首をかしげるミリアに、エリックは即答した。




 書物が寝そべるテーブルの上

 彼は魔術参考書に目を落とすと、真剣な面持ちで口を開く。



「…………少なくとも、この書物は、ここのどこを探しても手に入らない。


 『魔具の取り扱い書』はあっても

 『魔術参考書』まで売っていないからな。


 『取り扱い書を読むだけ』と

 『その理論から理解する』はまるで違うだろ?」


「……まあ、たしかに。言いたいことはわかる」

「だろ?

 だからもし、君が『もう要らない』というのなら、俺にくれないか?

 貸してくれるだけでいい。きちんと返すから」



「う〜ん…………まあ~~、いいけどさあ。

 『使おう』とは思ってない……んだよね?」

「出来ることなら、使ってみたいけど」



「うぅーーん……

 気持ちは~わかるけど……

 …………無理だと思うよ~?」

「…………やっぱり、マズいかな」


 

 提案に、腕を組んだり、頬を触ったり。

 顎を触ったりしながら渋る彼女に、エリックは眉を下げ視線を外して、僅かに肩を落とした。




 その、明かな消沈(・・・・・)を前に、「……あ、や」ミリアは慌ててぱたぱたと手を振る。

 エリックが『自分の言葉の意味を取り違えた』と理解したのだ。



「いや~~~、あの~~~。

 まずいとかじゃなくて、無理だと思うってことなの。

 だって『魔道の民じゃない( ち が う )』じゃん?

 『血が』、……えーっとその、『民的なヤツ』が」


「…………そうかな。

 俺は、そうは思わないけど」



 ミリアの言葉に込められた

 『国民じゃないじゃん?』

 『無駄になると思うなあ』

 という意味を理解して、彼は即座に首を振る。



 そして、真っ直ぐと彼女を見据え、背を正すと



「君も、言ってただろ?

 ”誰しも少しは魔力(ちから)がある”って。


 君の話を聞いた限り、これは幼児期から学校教育にも使われているんだよな?

 いうことは……力を引き出すことにも(・・・・・・・・・・)一役買っているんじゃないか?」

「………………」




 ビストロ・ポロネーズの天井から吊り下がる魔具ラタンが見守る中、エリックは言葉を続ける。




「…………内在している魔力(ちから)はあるものの、使い方がわからない子どもたちに

 

 『道具の補助をつけ力を使わせること(・・・・・・・)で』

 『できた』という成功体験をさせる……


 『扱うのが難しい能力が絶えないように』

 『少しでも多くの人間が、力を扱えるように』


 そうして、国全体で”力を守っていった”としたら?」


「………………」



「『成功体験』は物事を習得させようとした時に何より効率的だ。それを植え付けることで、対象が自ら物事に挑むようになっていく。君の話を聞いていると、魔力(ちから)を使いこなすには『それなりの素養』に加えて、『総合的な能力』が必要なんだよな?


 ──『誰でも扱えるようでいて、そうじゃない』

 つまり、それなりに扱いが難しいということになる。


 マジェラ(君のところ)

 『能力の衰退・それ(すなわ)ち文化の衰退である』と考えているのだとしたら……


 ──国がそうやって教え込むのは、当然のことだろうな」

(……上手くできてるよ、マジェラの教育は)





 最後のそれは胸の中で。

 呟くエリックは、『マジェラの教育システム』に関心と尊敬を込めて息をついた。


 


(…………うちも、まだまだ勉強が必要だ)

 ────と、これも胸の内で溢しつつ



 エリックは、先ほどから黙り込むミリアの前

 わずかな()を置き喋り出す。



「……まあ、だからといって、安易に広めることをしなかったのも納得だ。


 『扱いには素養が必要だから』

 『他国に悪用されたら困るから』

 ……国として、外には出さなかったんだろう」




 口に出しながら

 うっすらと脳裏によぎるは『自分の矛盾』。



 『学びたい』気持ちと『他国の考えやその事情』

 『禁忌かもしれない』という懸念。




 しかし、彼の中


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