4-16「妻も子供もいない(3)」
「────妻も子供もいない。信じてくれ」
「なんでそんな力いっぱい。」
たっぷり間を溜め、真剣な口調で放たれたそれに、ミリアも思わず固い口調で言い返した。
きょとーーーーん……とするミリアが、真に迫るエリックを疑視するその横で、別のテーブルにかけた男たちがこそこそと
『おい……!
あそこのカップル修羅場だぞ……!』
『ばかっ、見るなよ……男の方の浮気かな?』
『やっべ飯がうめえー!!』
『おやじー! ビール追加ぁ!』
と、好き勝手言っているのも耳に入らず。
(??? なんか、迫力あるんだけど、なに??)
彼女の頭の中は疑問でいっぱいだった。
目の前のエリックの気迫が凄い。
別に彼のことを言ったわけでもないのに、その迫力が真剣そのもので、
エリックにぽけーっと目を向けるミリアを見つめ返しながら、真摯に首を振るのだ
「…………言いたくもなるよ、誤解なんだから。……けれど、君の言わんとしていることはわかった。そう思ってしまうのも、仕方のないことだよな? だが言わせてくれ。そんな相手は存在もしていない。居ないんだ」
「……そ、そうなんだ?
じゃあ、かーどは……?」
「────王子にもらった。マジェラの商人が、献上品として持ってきたらしい。それを、もらった。本来の使い方も、どういった物なのかも知らなかっただろ? 何の説明も受けていない」
「……な、なるほど?
それなら、そうだね? 辻褄合う。
……いやまって? うん?
『王子さまに、商人が』?」
「リチャード王子。彼も、カードの用途は知らなかった。マジェラの商人から聞いていないらしい。そう、だからあれは『祝いの品』という名目で献上されてはいないんだよ。赤ん坊も・妻も・居ないんだ」
「……な、なるほど?? あ、それなら繋がったかも」
「────だろ?
わかってくれた?」
「…………うん」
矢継ぎ早。
怒涛の説明を飲み込んで、ミリアがゆっくり頷くその前で
彼が無意識のうちに『……はふ……』と小さく肩を下ろした時。
ソーダ水の入ったグラスを手に取り
ゆっーーくり『ぽすん』と椅子の背に体を預けたミリアは言う。
「…………まあ────…………。
おにーさんが旦那さまのことになると、一生懸命なのはわかった」
「…………」
「旦那さまが大事なのは、よーーーくわかった」
「──────……」
「エルヴィスさん、誤解してごめんね?
おにーさんも、ごめんなさい」
「…………」
「どしたの?」
────声かけに。
「…………いや、その……」
テーブルを挟んで向かい側。
不思議そうに首を捻る様子のミリアから視線を落として、
彼は苦々しく呟く。
自覚したのだ。
(──────”今”)
「??? おにーさん?」
「え、あぁ、────その、
…………気にしなくていい」
彼女の問いかけに、首を振る。
気まずいと言わんばかりに口元を隠し、抑え、そして自らに問いかける。
(…………”どっちで話してた”?)
見つめる先はテーブルの木目。
完全に気づいたその真実。
完全にテンパっていた。
役目も、立場も、ごちゃまぜになっていた。
(────ああ、くそ……!)
「…………こんなこと、いままで……!」
「おーい。」
「………………!」
その混乱は、違和感へ。
異変は、少しずつ。
「もしもーし? おにーさん?」
「──────はあ──────っ……」
「ねー? おなかいっぱい?
そのケーキ食べよっか?」
テーブルの向こう、正面で
不思議そうに首をひねるミリアに、エリックは黙って首を振ったのであった…………
#エルミリ




