4-16「妻も子供もいない(2)」
今生、一度も。
『女の敵』などと、言われたことはない。
彼は、盟主であり、紳士だ。
女性を粗雑に扱ったことなどない。
扱いにも気を付け、敬意を払い、角の立たぬようにひらりと躱し
──諜報員として接する時は”満足”はさせてきた。
なのに、
どうして
(────どうしてそうなった!?)
「ちょっと!
……待って。
──いや、えーと。
……どうしてそうなったんだ?
女の敵? はっ?」
言われたことが『わけがわからない』。
史上最高に混乱し、慌てる彼の前、しかしミリアはマイペースだ。
”ふっ……!”と目をそらし、
露骨に眉間に皺を寄せ
テーブルに両腕を置きながら、冷たいドリンクをちゅーっと吸い込み首を振ると
「………………しんじられない。
女の敵。ありえない」
「いや! 待って」
固い口調でポンポン出てくる槍のような言葉に、彼はまともに焦り返す。
周りの客に
『なんだなんだ?』
『女の敵だって』
『修羅場か?』
と好き勝手言われているが、そんなことはどうでもいい。
(なんでそうなった?
今、そんなこと言ったか?
いや、そんな流れじゃなかったよな……!?)
考える考える考える。
────が。
(『カードについて貶した』? いや、そんなことはしていない、『教育カードを遊戯カードだと誤解していた』から? いや、それで『女の敵』にはならないよな? マジェラの体制や国を貶したわけでもない、乾燥トマトと食事の話? ……いや、違う。それは関係ない、落ち着け、待て……!)
パニックである。
そしてそれは、困惑と焦りを纏ったまま口を突いて出た。
「……いや、えーと、……待って。
…………話が飛んでないか?」
「とんでないよ、全然とんでないよ?」
「いや、とんでるだろ脈絡がないじゃないか。
どうしてそうなるんだ?」
「だって」
困惑の黒き青い瞳に、ミリアはトントンとカードを指さし、覗き込むように体を前のめりに倒して彼に言う。
「これ、お祝い用なんだよ?
子供ができたり、生まれたりした時の。
それを『誰かからもらった』ってことは
『奥さまとお子さんがいる』ってことでしょ?
でなけりゃ、送り主もくれたりしないじゃん。
すっごく高いのに。」
「……!」
────言われ、理解した。
彼女が『何を想像したのか』。
彼は、『教育制度』の方に意識が行ったが
彼女の中では、そもそも『カード』は
『出産のお祝い』なのだ。
────背が、冷える。
(ちょ、ま)
「でも、今までそんな話は聞いたことないし、しかも今度舞踏会開くんだよね?」
「────ちょ、」
「まあ盟主さまでいらっしゃるから事情がおありになるのでしょうけど、シンプルに考えると『奥さまは? お子さんは? 内縁? 複雑な事情? 秘密? お祝いの品『要らない』って誰かにあげるとか、子供どうなったの? えええええええ』…………って……なるじゃん?」
「────ま、」
「そこまでならいいよ、『夫婦の事情』・仕方ない。
でもね、タチ悪いなって思ったのは舞踏会ね?
『もう結婚してるのに、未婚って偽ってる』のが現状ってことでしょ? それを知らない貴族の御令嬢集めて、品定め……
『えええええ、うそおおおお』って感じ。
…………ドン引きじゃん……?」
「待ってくれ」
「まあ〜
いつ別れたとか内情知らないしー
この辺の結婚観とか、知らないけど〜
お金に物言わせて、たくさん妻子って、
さ~~~~~~」
「ちが」
「そもそも『婚姻率の低下防止のためにやり方説いてる』『女性はものじゃないと政策進めてる』って言う割には自分やってることさあ…………『うゎぁ……』ってなるじゃん?」
「ミ、」
「良くないと思う。本当に良くないと思う~。
そういうのよくなーい」
「待ってください」
「もちろん誰にも言わないけど?
でも、やーっぱ貴族さまって、そういう人た
「 ミ リ ア さ ん 。 」
「はい?」




