4-15「おめでとうございます?(2)」
────すぅっ!
「────さん、はいっ!
うぉ・うぉ・ウォルタ♪
ふっ・ふっ・ふぁいあ♪
ひゅるひゅる うぃんど
もこもこ のーぉむ
きらきらまぶしい ライッ サンっ・パッ”♪」
「 ・ ・ ・ ・ ・ 」
「ふしぎなふしぎな えーれめんっ♪
たのしいたのしい えーれめんっ♪
うたっておぼえる えーれめぇーんっ♪
みんなであそぼう
えーれーめーんーつぅー〜〜〜……♪
──じゃん☆」
「──────…………」
身振り手振り────
ポージングも完璧に────
中指と薬指が綺麗に着いた形で手を広げるミリアと────
それを見上げるエリックの間を────
他の客のざわめきが支配して────
「…………くっ! ……くくくっ……!」
────はっ!?
(────しまったっ!?)
エリックの笑い声に、ミリアはふと我に返った!
ポーズもそのまま目を向けてみれば、
エリックは右手で目を覆いながら、小刻みに肩を揺らして笑いを噛み殺している!
そして自分は今、立ち上がっている!
(…………しっ…………!
しまっ…………たぁぁぁ……!
またやったぁぁぁぁぁ……!)
その状況に、ミリアは一瞬、叫び出すのをぐっと堪え──!
スン……と整えるマジな顔
さっ……と背を伸ばし
すっ……とスカートを整えながら座り直し
”ス──────”と息を吸い
「────っていう…………ね。
はい、そういう。
やつがあるんですが。
あの──────……
やらせないでもらえます??」
「──────フッ!」
「────と、まあ、ね?
そんなわけで。
そういう教育が。
あるわけなんですけれども。
魔具、あるでしょ? あれの元々の発想はこのカードから来てるんだって。授業で習った。
かの有名なバネッサ一族が
────って。
あの、きーてます??
おにーさん?」
「────あ、アァ、うん」
ごほんけほんっ、んんっ
こほんこほん、ンンッ
「このカードね、本当にむかーしから使われてて。作ってるのはバネッサっていう一族でね、教科書に載ってるほどの人たちで、今もカード教育ビジネスで大儲け。その作り方は先祖代々、門外不出らしいんだけど、後続勢は熱心だよね。その方法をどこからか入手して、最近は類似品も出たりし……って。
────笑わないで聞いてくれます???」
「……んっ、ケホッ。」
ふ──────……!
────────っ。
──────キリッ!
「…………笑ってないだろ」
「にやけてんじゃん。
でも、そんな魔法元素カードをみた他の魔術師が、『紙にイケるんだったら、ものにもイケんじゃね?』って応用したのものが『魔具』として広まっていったの。これも教科書に書いてあった。魔具開発のTOPは、言わずと知れた~っ……って
…………ねえ、聞いてる?」
「…………~~~~!
…………あぁ、うん……!」
エリックは わらってうごけない。
エリックは わらいに耐えている。
声も震える。
腹が痛かった。
はっきり言って『勘弁してくれ』が本心である。
自分で踊って歌っておいて『やらせるな』と言った挙句、押し通した上、ちょいちょい入る『マジトーンの確認』に腹が痙攣する。
これで笑わない方が無理な話である。
しかし彼女は、
「ねえ、はなし、きいてた?」
と、お構いなしだ。
目の前でぐるんと首を傾げて問いかける『その攻撃』に、エリックは、今度こそ。
姿勢を正して胸を張り
大きく大きく息を吸い込んで────
────すう────っ、
…………はあ────っ。
「────ああ、もちろん」
「半笑い」
「勘弁してくれ……!」
──痛恨の一撃!
エリックはうつむき笑い震えている!
まるまる背中に落とす顔。震える肩。
ちゃんと深呼吸し、息を整えたのに。
ミリアの鋭利な一撃で、思わず掲げる『白い旗』。
腹筋がツライ。笑いが噴き出す。
怒りを堪えること・嫌悪を逃すことよりも
笑いを堪えるのが、こんなにも辛いとは。
(……つ、つらい……!)
人生初のツラさを押し込めようと、湧き出る笑いを奥歯をかしみめ殺すエリックに
ミリアの方は、とても不服そうに頬を膨らませ、
「っていうか、人が真面目に話してるのに、なんで笑うの、失礼じゃん!」
「……笑わせにきてるじゃないか……!」
「してないし!」
「……してるよ……!」
「わたしは! 大真面目に!
説明しているというのに!
そういうの! そういうの良くないと思う!」
ふん! と腕組み
つん! とそっぽを向く彼女。
そんな、『ごりっぷく!』を体全体で表す様子に、しかしエリックは笑いながら頬杖をつく。
ふふふふ、笑いを堪え
──ふう──っと大きく息を吸い込み
『愉快』を滲み出しながら、今度こそ
ご機嫌な頬杖と笑みで、彼女に問いかける。
「…………なら、インターバルをくれないか?
あんな風に笑わせにきておいて、畳み掛けられたらひとたまりもないんだけど?」
「だからあ、笑わせてないじゃん」
「笑わせにきてるだろ? ああ、殺す身にもなってくれ」
「しゅぎょーが足りないのではぁ〜?」
「出たな? 君の得意な『修行論』
けれど、言わせてくれないか?」
互いに頬杖で囲むテーブル。
エリックは手のひら。
ミリアは拳。
それぞれ違うが、言葉にするのは『軽口・減らず口』。
まるで鏡のように調子を合わせる彼女に、彼は本音をこぼした。
「これは、修行とか、そういう話じゃないから。
あんな攻撃を食らったら、ひとたまりもないよ。
────あぁ、腹が痛くて仕方ない」
「よかったネ、腹筋が割れるネ、やったネ。
ヤッタァ!」
暗に『君のせいだぞ?』というエリックに
ミリアは裏声なんぞを使いつつ、完全に他人事だ。
テーブルの上では、
運ばれてきたレモンソーダがじんわりと汗をかき
マドレーヌのような厚さのりんごのケーキは、静かにエリックのフォークを待っていた。
『ふふふ、くすくす』と笑うエリックに、ミリアは一つ。
むくれ顔のまま一瞥し息をつくが、しかし次の瞬間。
ほんの少し前かがみになり、彼に首をかしげて問いかけた。
「────で、あのさあ」
「ん?」
「ちゃんと理解してくれた?
そのカードのこと」
「ああ、大丈夫。
とても参考になった。
君の国の教育システムに興味が湧いた。
我が国も、ぜひ取り入れるべきだと思ったよ」
「……またなんか固いことを……
まあ、いいんだけど。
でさぁ?
それ、だれから……?」
「うん?」
彼女の問いかけに、エリックは
ゆったりと、わざとらしく小首を傾げてとぼけてみた。
胸の内に、『それは、気になるよな?』という思惑を隠し、余裕の笑みを浮かべて。
そんな視線・表情に導かれる様に、ミリアは目を向け問いかける。
「そのカード、誰からもらったの?
だってこれすっっごく高いんだよ?
そもそも、ここにあるのだっておかしいもん。
魔具専門ショップにも置いてないし、マジェラでだって簡単に手に入らないのに」
…………フッ……
────その、ミリアの口から出た『想像通りの問いかけ』にくすりと緩む口元。
上がる気分。やっと訪れた『想定内』。
──さあ、主導権を奪取する好機である。
彼は、緩やかに指を組むと、じっっと彼女に目を向けて、
「────気になる?」
「まあ。気になるよね、高いし」
「────ああ、まあ。そうか。
……くれたのは、旦那様だよ」
「だんなさまから。
……だんなさまが。」
「────そう。下さったんだ」
間髪入れず二度繰り返したミリアに、エリックは、穏やかに答えた。
「──俺は、手札遊戯や盤上遊戯が得意でね。
旦那様はそれを知っているから、俺に下さったんだ。
彼はとても気の回る方で、仕えている俺のこともよ
────く…………!?」
言いかけて、止める。
言う自分の目の前で
ジュースに手をかけストローをつまむミリアの表情が────
みるみる
『退いて』いくのを
目の当たりにして。
「……!? ……ミリア?
ど、どうした?」
「………………」
予想外の反応に、彼がまともに動揺した時。
ミリアは、す……っと肩を退き、ぽそりと呟いた。
「………おんなのてき…………」
「────は!?」
「………………ありえなーい………………」
その言葉に
エルヴィス・ディン・オリオンが発した、今日何度目かの『はっ?』は
大きく店にこだまして、周りの視線を集めたのであった。
#エルミリ




