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4-15「おめでとうございます?」










 人は、ある程度

 相手の反応を想定して物事を進める生き物だ。




 エリックが手に入れた、マジェラのカード。




 それは、ミリアにとってきっと

 『懐かしいもの』であり、見た瞬間に驚くだろうと思っていた。




 『わ! え? 懐かしい!』

 『どうしてもってるのー!?」

 『ねえ、一緒に遊んでみない?』




 そんな反応を想定して、エリックはカードを見せる。

 にっこりと笑いながら、伺うように。



「……これを貰ったんだけど、見覚えあるだろ?」






 しかし、返ってきたのは



 



「あら〜……。



 ……『おめでとうございます』?」



「え」






「……? 子供産まれるんじゃないの?」

「はっ!?」
















 言われたことが理解できなかった。

 素っ頓狂な声をあげて、視線を集めるエリックは固まり言葉がない。


 


 まさに斜め上。

 とんでもないところから とんでもない攻撃を受けたような気がして、テーブルの上腕を置き、思わず前のめりになる。



 焦る・わけもわからず・言葉が彼の口から突いて出る!




「────ちょっと待って! 

 ……えっ?

 ど、どういうこと?」

「あ、生まれてる系?

 おめでとーごさいまーす」


「いや、だから、」

「っていうか、こんなところでご飯食べてて大丈夫? お子さん生まれたばかりでは?」

「いやっ! ちょっと待って!

 どうしてそうなるんだ!?」



「『どーして』って。そーいわれても……」




 言いながら、思わず飛び出る『待った』の手。

 わけもわからずテンパる頭。

 背中に感じる熱さも手伝い、正常な働きが出来ぬエリックの前で




 ミリアは心底不思議そうに、ハニーブラウンの瞳を向けるばかり。




 そんな状況の中。


 店のスタッフが気配を殺して

 レモンソーダとりんごのケーキを彼らの席に置き、逃げていくのを視界の隅に────



「…………待ってくれないか。

 ……は、話が読めないんだけど、」




 絞り出すエリックの脳が、かろうじて



 ある可能性を


 拾い上げた。




「…………これって、

 まさか…………

 …………”子ども、用”?」


「────んーーー、

 子ども用っていうか、お祝い用?」

「……”お祝い”?」





 かるーい口調で返ってきた言葉に、エリックはオウム返しだ。


 辛うじて繰り返すことしかできないエリックを前に、ミリアは目の前に置かれたりんごのケーキをチラリと見下ろし『こくん』と頷くと、




「ん。そう。

 それ、子どもが産まれた時のお祝いにあげるやつ。

 魔法元素(エレメント)カードっていうの」


「…………『エレメント……カード』?」

「うんっ」





 頷く彼女の手が掴むのは

 自分の前に置かれた『リンゴのケーキ』の皿と

 彼の前に置かれた『レモンソーダ』。


 店員が置き間違えたそれを、くるりと入れ替えミリアは言う。




「基本、お祝いの時にあげるけど、ただの子どものおもちゃってわけじゃなくてね〜?


 いわゆる、魔具の一種なんだ。

 1枚1枚に魔法元素(エレメント)の力がこもってる。


 小さな頃は、幼児教材として『絵カード』として使ってるのね? で、学校に行くようになったら『補助』として使って、10歳ぐらいから、バトルカードとして友達どうしで遊んだりするやつ〜」


「……………………へ……へえ」




 言われ、エリックはなんとか、言葉を返し、背もたれに背を預け考えを巡らせ『平然』を装った。



 口元に笑み。

 目線は巡らせ、落ち着けと言い聞かせつつ、彼女の方をチラリ。



 彼女の口から出た

 『子供がいるんじゃないの?』攻撃が、なぜかいまだに後を引いている。



 いまだに少し背中は熱いし、心臓は嫌な鼓動を打っているのだが────




 ミリアのマイペースな語り口調も手伝って、徐々に頭の中が戻っていくのを感じながら、彼は声を整えるよう意識しながら口を開いた。





「…………ま、

 まあ確かに、言われて納得したよ。

 家で、見てみたけど、ペアになってるものばかり、というわけでも、無かったし。


 ……へ、へえ?

 なるほど?

 小さな頃からカードの模様を見せて、子どもに教え込むのか、へえ」

「そうそう」


 

 内心の動揺を無理やり押さえつけながら相槌を打つエリックに、ミリアはマイペースな相槌で返す。




 そしてその指で、カードをトントンと突くと、『教えてあげるね』の雰囲気を醸し出しつつ言うのである。





「すごく高いの。これ。


 これから子育てする親じゃあ、とてもじゃないけど買えないから、周りがプレゼントするのが習わし。国民全員持ってると思う。


 …………でも、そっか、遊び道具だと思ったんだ?」



「…………まあ、な」


「まー、そうかもしれないねー?

 わたしたちはもう『そういうもん』だと思ってみてるから、そんな風に思えないけど。

 はたから見たらただのカードだもんね?

 ふふふ、ちいちゃな子に教えるやつなんだよ~♪」



「…………幼児教育、ね…………なるほど?」




 テーブルの上に置かれた、ひと組のカードを前に

 自国とは違う、マジェラという国の教育システムを垣間見て 


 無理やりそちらの思考へと移行させていくエリックの傍らで





「…………いや~。

 それにしても懐かしーなあ……♡」



 ミリアの中では、久しぶりに見た故郷の道具に、ノスタルジーが湧き出して堪らなかった。




(…………ほんっと懐かしい……!)

 



 自然と伸びる手、触れるカード、その感触。



 自分のものは、もう長いこと机の中だ。

 それを仕舞い込んだ記憶と共に、思い出すのは昔の話。



 魔導学校の学生の頃、友との対戦バトル。

 初等学級だったころ、カードを家に忘れて半泣きをした時のこと。

 幼き頃に聞き、歌った『あの歌』。




 『昔の色々』が噴き出して、彼女は懐かしむようにカードを一枚引き抜き、うっとりと微笑むと、


 


「……こんなところで見るなんてな〜

 初めはこんなに綺麗なカードだったんだねー、へぇ〜……!」




 自然と、弾む声。

 上がる気持ち。

 懐かしさとわくわくに乗じて、彼女は喋り出す。



 

「あのね?

 さっき『幼児教材』って言ったけど、小さいうちはもっと大きなカードを使うの。


 力がこもってないやつ。

 絵だけのやつ。

 イメージが大事だから、絵だけでいいの。


 で、教えるのは外がいいから、その辺の広場とかで教えるの!


 こーやってねー?

 大人がカード持って〜」




 いいながら、カードの柄を見せるように持ち、




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