4-14「福利厚生chocolate(3)」
「うーん? 『意外』? というか。
”真面目だな”って。そー思った」
「……”真面目”?
まあ、そう言われることもあるけど。
今、それを思ったのか?」
「……うーん……、ちょっと違う……?
真面目……じゃなくて、えーと。
あ~、そう。
『広く考えられる人なんだな』〜って。おにーさんって。
そっちだと思う。」
「……”広く”?」
言われ、エリックは聞き返す。
確かに幼少から『広く、大局を見るのだ』と教え込まれては来たが、そのニュアンスで彼女の口から出るとは考えにくい。
ただ言葉を待つエリックに、ミリアはこくこくと頷くと、
「そうそう。
わたしは、今の話聞いて『若いなー、同い年じゃん』ぐらいにしか思わなかったけど
キミは、その周り……親とか気にしたじゃん?
真面目っていうか、なんていうか。
うーん”情に厚い”?」
「…………」
言いながら首をかしげる彼女を前に彼は瞬間的。
悪戯っぽく小首を傾げ、ニヤリと笑い息を吐くと、
「……それ、どういう意味だよ?
そんなに軽薄に見える? ……まあ、」
「────まあ。
もらったものはすぐにポイしそう」
「…………フ!
随分正直に言うんだな?
でも、残念」
スパンと
さらっと
ド正直に出た、彼女の言葉にエリックは意図せず笑い、そして
すうっと
その表情から、煽りと自嘲を消して
柔らかに開いた瞳に本音をたたえ
思い出すように 述べる。
「…………思い入れがあるものほど、捨てられないよ。
人様からもらったものなら、尚更……な」
「へえ……!」
見える世界の真ん中で、見る見るまるまる瞳。
意識せず漏れる、小さな笑い。
「意外?
……まったく、人をなんだと思ってるんだ?」
「それはこっちのセリフです〜。
人をなんだと思ってるんだか~」
皮肉と友好を込めて
右手のひらで頬杖を付くエリックの前
ミリアから返ってきたのは、同じ調子の”生意気トーン”だ。
同じ調子のその声は、二人を包む雰囲気を変えていく。
『意外』から、『理解』へ。
『理解』から、『愉快』へ。
まるで鏡のように言い返す彼女の表情を、さらに映し返すように。
エリックは怪しげで、艶のある笑みを浮かべ、仕掛ける。
「────知りたい?
『俺が君を、どう思っているのか』」
「いらない♡ 大体わかってるから結構♡」
にっこりさっくり返ってきたのは煽りの笑み。
まさに『相棒』にふさわしい、遠慮のないトーンで彼女は言い返す。
「ふふ♡
どーせ『むこう見ずで突拍子もない、飛んだ弓矢』だと思ってるんでしょ?
わっかる。大丈夫。もう知ってるから♡」
「もしかしてわざとやってるのか?
着いていくのが大変だから、やめてほしいんだけど?」
「選んだのそっちじゃん?」
「そうだよ。
君を、選んだ。
俺の、パートナーにね。
君が『ふさわしい』と思ったからだ」
「ほう……」
まるまる瞳を、覗き込む。
「──だから、無理はしないでくれよ?
「まあ、うん、無理はしないよ?」
「…………わかってるのか?」
「うん、わかってるわかってる」
テンポもよく、2つ返事で。
素早く返ってくる声に、エリックは『ほんとに?』と言いたげに目を細め、くすりと笑いを漏らした。
そこは、ビストロ・ポロネーズ。
楽し気に食事をする民を背に
悪戯っぽく笑うのはミリアという女性。
そんな彼女と会話を楽しむのは
民を、領を統治するエルヴィスという盟主。
(こんな会話が出来る世界があるなんて)
と呟きつつ。
エリックはミリアとの話に心地よさを感じながら
『満を持して』、後ろのポケットに手を入れた。
手に取るのは、『例の平箱』。
反応を予想し、ほおを緩め、そして語り出す。
「────で、そうだ。
そんな『もらったものでも、要らなければすぐに捨てそう』だと思われている、俺が」
「ごめんって」
「こんなものを、貰ったんだけど」
「────?」
もったいつけるように言いながら
リチャード王子に貰った
『マジェラのカード』を差し出し
テーブルの上に滑らせ────
「……見覚えあるだろ?
君に見せたいと思って、持ってきたんだ」
「……!」
──フフッ。
想像通りの反応に、彼がまた、笑いを漏らした時。
「………………、あら~……。」
ミリアはその、カードから目を離し、まんまるとした瞳を向けると
「えーと『おめでとうございます』?」
「…………え。」
────時が、止まる。
脳も、止まる。
「………………お、『おめでとうございます』……?」
「?
こども産まれるんじゃないの?」
「────はっ!?」




