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4-12「夢と現実」(6P)


 

 

「…………君から話を聞いたおかげで、今回は随分スムーズだった。相手の言っていることがわかるようになると、話の進みも早いよな」

「……?

 わたし、舞踏会の準備に役立つようなこと言ったっけ……?」


「いや? こっちの話だから。

 気にしなくていいよ」




 盛り上がった話題と

 嬉しそうな老いたテーラーを思い出しながら

 ぽろっと溢れたそれを、彼は素早く掃き、流し




 流れるように小難しい顔つきで口元を覆うと、悩ましげに息をつく。




「────そうだな、仕事が残っているといえば……


 あとは、当日?

 ……当日は流石に、抜けられそうも無いけど」

「……当日はさすがに、男性スタッフ立ち入り禁止ですね……?」


「…………ああ、そうか。

 当日こそ修羅場だよな」

「よやくでいっぱい。あさからドレス締める」


「なるほど。けれど、俺が言いたいのはそっちじゃなくて

 ”契約”。

 注力したいシゴトは、そっちほうなんだけど」

「…………」


 


 言いながら、”コツ・コツ・”とテーブルを鳴らしたエリックに、彼女は顔のパーツ全てを横に引き伸ばして黙り込む。



 

(────その顔。)

 

 瞬間的に、ミリアが何を考えどうしようとしているのか手に取るようにわかったエリックは、彼女に素早く言葉を返した。




「……忘れてた?」

「いや?? 1割ぐらい覚えてたし??」

「…………それ、ほとんど忘れてるのと一緒だろ」

「や、」



 テンポ良く、呆れ口調で返す言葉に

 ミリアは一瞬『ちが、』と言いかけるが────



 素早く瞳を回し、さっと次の話題を投げかける。




「そいえば

 ”やり方はおにーさんが考える”んだっけ?

 この前そういってたよね?」

「…………ああ」



 問われ、頷くエリック。



 若干深刻な顔をして、あたりの様子を瞳と神経で舐めるエリックの前、『話題反らし作戦』が成功したミリアが、内心(ヨシ!)とガッツポーズを取るが 

 



 それに気づかず────彼は、

 ────気を潜めて辺りを探ることに、神経を注いだ。





 



 ────昼の『ビストロ・ポロネーズ』。

 天井から吊る下げられた数々の照明魔具を頭の上に、楽しそうに話し込む人々。





 職場の仲間か

 兄弟か

 それとも、母親同士なのか。




 わいわいざわざわと騒がしい客を背景に

 エリックは、”じっ……”とミリアに目を向け



 テーブルに両肘を置き、声を潜め、澄ました顔で、そっと囁く。






「…………少し、こっちに来て」

「……!」



 『いつもと違う密やかなトーン』で言われ、ミリアの顔には──緊張が走った。




 なんとなく、感じているのだろう。

 『真剣な話が始まる気配』を。

 




 彼が雰囲気を変えずに待つ中、


 ミリアは、そのハニーブラウンの瞳を迷わせ

 極力体を動かさぬよう、肩に力を入れながら

 すぅ────っ……とその身を寄せ問いかける。




「…………こんなとこで、大丈夫?」

「………………ああ。

 これぐらい煩いぐらいの方が、都合がいいんだ。下手に静かなところより、周りの声が会話をかき消してくれるから。


 ──それに」



 答えるトーンは『いたずらな秘め事』を持ち掛ける時のよう。


 声を作り、雰囲気を作り、

 そして彼は、その表情を彩った。





 浮かべるのは

 ”余裕”と”色気”をたたえた────大人の笑顔。





「……これなら『仲のいい恋人同士が語らっている』ようにしか見えないよ」



「…………”ともだち”ではなく? 恋人なんだ?」

「……いや、どっちでもいいんだけど。

 これぐらいの男女が語らっていたら、周りにはそう見るのが自然だろ?」



「……そーなのだろうか……?」

「……そうだろ?

 だから君も、それらしい顔で聞いてくれる?」


「…………?」

(……『それらしい』って、どんな顔……?)





 余裕を称えた笑みを前に

 ミリアはぐるりと考えて────





 ”作る”。







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