4-12「夢と現実」(4P)
「え? ああ、いや?」
胸の疑問を気遣いに変えて、ミリアが飛ばした問いにエリックから返ってきたのは『素早いNO』。
何かに気づいたように『さっ!』と上がった彼の顔には、一瞬『不意を突かれた』ような色が見えて取れたが
彼の表情は、即座に『余裕』と言わんばかりの笑みに変わる。
「…………むしろ、
悪かったのは君の方じゃないか?
食事を摂って
だいぶ顔色が戻ったように思うけど?」
「…………うぁあ〜、心配して損したぁ〜。
修羅場なの、誰のせいだと思ってるの?
キミのご主人さまのせいなんだからね!」
「…………だから、手伝うって。
オーナーにも許可をもらったし、オリオンの家のものとして、精一杯やらせてもらうよ」
「…………お屋敷のお手伝いはいいの?」
「ああ、大丈夫。
俺の仕事は、もう終わったから」
伺うように聞くミリアに頷きながら
落ち着き払った口調で述べるエリックが思い出すのは、『ここ数日で片付けた仕事の数々』である。
舞踏会に招かねばならない人間のリストをもとに
招待状という名のラブレターをおくり
もてなす食事のメニューをざっと確認し
場所を確保し金を納める。
そして、ベストとシャツの新調に伴う採寸と生地選び。
毎度おなじみの『シャツやベストの新調』も
ぶっちゃけ彼は『舞踏会で毎回やることもない』と思うのだが
ここで新調しないと、お抱えのテーラーが泣きをみるのである。
親、祖父の代からの慣わし・慣例行事。
注文せずとも『舞踏会』といえばやってくる、お抱えテーラーの縫製師。
その縫製師が語る『生地やらボタンの種類やら』の話題に、彼は
少し前まで『そうか』『良いものなのだな』としか返しようがなく、どう話題を拡げて良いかわからない時間だったのだが────




