4-10「プリンは伸びない」(8P)
「まあまあ、とにかくね?
ぷるぷるで甘くておいしいのがあるの」
「……──作り方は?」
「卵と、砂糖と、ミルクを混ぜて
グツグツいってるお湯の中で、熱を通すと、できる」
「…………? 湯の中で、熱を通す……?」
言われ、想像する彼。
が、彼は盟主だ。
普段、料理などを作るはずもなく
『湯で熱を通す』と言ったら
考えられるのは、一つしか出なかった。
「…………”茹でる”ってこと?
君の話を聞いていると、卵とミルクと砂糖を混ぜたものを、熱湯に垂らして」
「垂らしちゃだめじゃん、
それじゃプリンスープじゃん。
薄くなっちゃう、もったいない〜」
「いや、だって
『熱湯に入れる』って言ったよな?」
「『カップに入れて』、から、
『熱湯に』、いれるの。
陶器のカップごと、
お湯の中に入れて、『蒸す』の」
「────『むす』?」
「蒸す」
「……むす……?」
「むす。」
「…………むす……?」
(…………え────っと……)
エリックの、その『いまいちわからない』という反応に、今までペースを貫いてきたミリアも口を噤んだ。
彼女は
この国に5年暮らしてきているとはいえ
誰かと生活を共にしたことがあるわけではなく
『表面的に見えるシルクメイル地方の生活』以上のことはわからない。
ミリアの中、あまりの伝わらなさ加減に
(…………わたし今、古語喋ってないよね……?
公用語しゃべってるよね……?
古語、喋れないけど……)
ゆるく握ったスプーンもそのまま、
(……わたしの伝え方が悪かったりする……?)
と疑問が吹き乱れる。
が、次の瞬間。
(……あっ。)
ミリアは、はっと閃いた。
この国にきて、初めて知った調理法があること。
店で出されて、思わず作り方を聞いたものがあること。
ミリアが『こっちで初めて出会った』のなら、
ここにも『『マジェラでは普通』の調理法が無いのかもしれないと』。
ミリアの前
テーブルを挟んだ向こう側で、口元を覆いながら難しそうな顔をして首を捻るエリックに
彼女は、”そぉー”っと前屈みに覗き込み、
問い、かけた。
「…………あのー。
そういえば
この辺のご飯屋さんって……
蒸したり、しない……?
蒸し料理が、ない……?」
「………………”ムシ、料理”……?」
「蒸し料理。」
「…………ムシ…………?」
(………………虫………………?)
────ミリアの問いかけに
盟主・エルヴィス・ディン・オリオンは
(……………………………………虫?)
瞬間的に勘違いし、思いっきり
人知れずドン退いたのであった。




