4-10「プリンは伸びない」(7P)
(……『ホイップクリーム』って言われても……)
あれは『高級店でしか味わえないもの』だ。
窓の向こうで提供されているのをちらりと見たことがある程度で、口に入れたことなど一度もない。
そんな彼女に『ホイップクリーム』を例に出されても、わかるわけがなかった。
「うんんん、ホイップクリームが、
食べたことないから、わかんないんだけど、
あれ、固そうじゃない? 見た感じ。
なんか、型に入れてないのに形保ってるし。
固くないの?」
「あれは……、固くはないよ。
噛む必要はないし、さっきも言った通り、口に入れると溶けるから」
「へー、そうなんだ?
固いとおもった。
あのね、プリンはね
スプーンの上で”とろーん・ぷるぷる~”ってする」
「……?
……加熱したチーズ……みたいな?」
「いや、そんなに伸びないっす。
伸びない伸びない。
チーズは
『とろーーーん、びよーーーん』じゃん?
プリンは伸びない」
「……???」
もはや脳内はプリン迷宮である。
彼は大層優秀で、頭もかなりいいのだが、
先ほどからミリアの言う『ぷるぷるとろん』がいまいちピンとこない。
甘いのか、苦いのか、固いのかもわからない。
ミリアもミリアで懸命に説明しているのだが──
彼女の説明が若干残念な上
二人とも、育った国も身分もまるで違うために『共通認識』というものが掴めないでいた。
(……肉の脂身とは違うんだよな? ミルクと卵だろ?)
(…………えぇ……なんで通じないんだろ…………)
────先ほどまで普通に話していた相手の言うことが、わからなくなるこの感覚。
『…………』
わいわい、がやがやと賑わう食堂・ポロネーズの一画で、二人は微妙な顔つきで黙り込む。
────が、それを破ったのはミリアの方だった。
切り替えるように声を張り、小首をかしげて話し出す。




