4-8「待ってたの」(5P)
「…………えるっ?」
「 えびッ、 」
「 しゅっ、」
「 でぅッ?」
「………………オリオン!!!」
「……『エルヴィス・ディン・オリオン』」
「────そのひとっ!」
「………………」
びっしっ! と指をさされ、黙るエルヴィス・ディン・オリオン本人。
──ああ、すべてに言葉が出ない。
まさか自分の目の前で堂々と、『あれあの人名前なんだっけ芸』を喰らうなんて思わない。
────彼は盟主。
招待客のドレスの細かい装飾まで見ちゃいない。
ぶっちゃけ舞踏会があるたびに女性がドレスをリメイクしたり、パーツを付け替えたりしているなど、知らなかった。
────しかし。
「………………」
(…………言われてみれば、そうか…………)
『催し物があればモノが動く』は自明の理だ。
舞踏会開催の余波が密集したのがこの現場。
つもりに積もった修羅場を前に、『なりふり構っていられない』と言わんばかりに髪をトップで縛り上げ、目の下にクマをつくり、腰に巻いたストールの結び目の部分に無数の待ち針を指したミリアは『ふぅ────っ』と息吐き出すと、
「…………ってのをですね。聞いていただきたく。……オリオン様にお仕えしているおにーさんに言うのは、少し、どうかと思うわけなのでございますが。…………もお〜〜〜さああ〜〜〜言わなきゃやってらんなくてさあ〜」
「…………」
眉を思いっきり下げて、がっくり首を垂れる彼女からうかがい知れる、相当な苦労と疲労。
その様子に黙り込む盟主の前で、ミリアは流れるように肩をすくめ、はちみつ色の瞳でエルヴィスを見上げると、くにゃ~っと眉を下げ、言うのだ。




