4-8「待ってたの」(4P)
出迎えたのは、ミリアの『来た!』という『待ち望んでいたような声』。
勢いよくカウンターを回り込む彼女にエリックが困惑しながらも、少しだけ胸の奥で感じていた『期待のようなもの』は
『わしっ!』 っと掴まれた胸倉と
『むんずっ!』 っと引っ張られた襟元と
「キ ミ の ご 主 人 様 。やるならヤルと早目に言ってくれる???」
かっぴらいたその瞳に、動揺へと変わる。
一瞬思考が停止して、流れるようにエリックの目が捕らえるのは、彼女の後ろだ。
やけにごちゃついているカウンター上。
この前は見受けられなかった、羊皮紙の付いたドレスの数々。
山盛りで色とりどりな布を背景に『 修 羅 場 』と言わんばかりに前髪をすべてまとめ上げたミリアは、彼の胸倉をググっと引き寄せると、
「”舞踏会”をなんだと思ってんの? みんな既存のドレスで行くとでも思ってる? ドレスが、リメイクがすぐ仕上がると思っていらっしゃる??? ねえ、盟主さまはそう思っていらっしゃる??」
「──────は。」
「いいのよ! いいの! 舞踏会おおいにけっこう! ありがとうございますオリオン様っおかげで仕事が繁盛しております! しかしですねお兄さん!? 納期までに2週間きってるってどういうことなの、わかってる!?」
ぐぐぐぐぎぎぎぎぎぎっ。
締まる首元に、血走る眼。
「そっちは手紙出してお料理用意するだけでいいかもしれないけどねっ! こっちは元の業務に加えて、舞踏会に備えてドレスを新調したり リメイクしたり 作り替えたりする、貴婦人・ご婦人・お嬢様方が、どっさーーーーーってくるわけ! それはもう、どっさーーーっと!!」
「…………あ、あぁ」
「わかる!? この忙しさ! コサージュ コサージュ 裾上げウエスト直し・コサージュ コサージュ スパァンコォル!! 予想はしてるよ! 大丈夫! 舞踏会、あればこうなる、こういう修羅場も慣れている!! しかしね!? ……それでも今までは開催まで1ヶ月とか余裕あったのに今回2週間ないだとッ!? おかげで2日家に帰ってないぞばかあああ!!」
「────あ、あぁ……」
「──『くぉら”エっ』!」
「?」
ピタっっと止まるミリアに、エリックの眼差しが降り注ぎ──




