4-8「待ってたの」(2P)
しかし、身分と暑さは別問題。
街行くエリックの手が伸びるのは、首元。
開けた胸元をぐぐっとひっぱり、ぱたぱたと仰いで空気を送り込む。
(……ベストがあると、熱がこもって仕方ない)
ゲンナリと呟くエルヴィスが思い出すのは、リチャード王子の言葉だ。
『暑いなら脱いだらいいのに。
オレなら耐えられないね』
それに対して
『脱げるわけないだろう? 貴族としてここにいるんだから』と、ピシャリと返答したのがついこの前。
本当なら脱ぎたいが、
気を張っていなければならない相手の前で
だらしない姿を見せられるわけがなかった。
しかし。
(あぁ、暑い……
ミリアに言っても仕方ないのは、重々承知だけど。
次の紳士服の流行りは、もう少し通気性のいいものをお願いしたい。
民に馴染むよう身に着けてはいるが、夏にベストと詰襟のシャツとか暑くて仕方ないんだけど?)
と、どうにもならないことを呟きつつ。
エリックは、その黒く青い瞳に
”目的地”ビスティの姿を捉え、
(…………、)
見えた店構え・緩やかに上がる口元。
脳裏に浮かぶ、ミリアの顔。
──さあ、今日は何を話そうか。