4-8「待ってたの」(1P)
その日、エリックの気持ちは穏やかだった。
”久しぶり”の街の中。
旧街道を行き交う人も店も、どことなく活発に見える。
あれから、数日。
やっと訪れることができた”旧街道”。
国際連盟円卓会議も済ませ、キャロラインに突かれた舞踏会の手配もした。盟主としての舞踏会の準備も済んだ。
舞踏会の日程については、今後の『毛皮の件』やその他スケジュールの都合もあり、直近で”開催できるであろう日程”にねじ込んだ。
それもこれも、『毛皮の件』に時間を割きたいからだ。
(…………他のことは済ませたし、これで任務に取り掛かれる)
と呟くエルヴィス……
いや、エリック・マーティンの足取りは軽かった。
8月の、燦々と降り注ぐ日の光を受けているのにもかかわらず、だ。
それというのも、実はこの彼。
夏が苦手なのである。
彫刻のような外見と雰囲気から、
『心頭滅却すれば火もまた涼し』とか
『暑さなんて気合で乗り切れる』とか言い出しそうな印象なのだが
彼は、北国シルクメイル地方で生まれ育った男だ。
暑さに弱かった。
本当なら、もっとラフな格好をしたいし
部屋の中なら上半身は裸でいいと思っているのだが──彼の立場が、それを許してはくれない。
彼は『盟主エルヴィス・ディン・オリオン』
そして
調査機関のボス『エリック・マーティン』
副業モデルの『リック・ドイル』
貴公子であり
革命児であり
モデルであり
裏のボスだ。
「…………でも、暑いな」