4-7「食用になってからおいで!」(5P)
そのキッチンには何枚かの皿しかなく、フライパンも鍋もひとつずつ。
近年はパンを上手に焼く生活魔具も出てきているようだが、ミリアの生活にはそのような魔具など必要ない。
洗濯は魔法でなんとかなるし
パンだって焼くことができる。
…………焦がすのだが。
「──しかし、生活魔具を買うお金はありません。
なので、使わねばならぬのです。
生きていくには、魔法が必要なのです……!」
──と、突如すわっ! と背を弓なりに伸ばし、
ぴたりとくっついた中指と薬指も綺麗に、
掌を宙に向けながら、虚空に向かって話しかけるミリアは
次の瞬間
芝居ががったセリフと表情を『すんっ』と切り替え背を丸め、ガリっと焦げに噛みつき、やさぐれモードにシフトすると
「────ま、
普通に火ぃつけて、フライパンで焼けって話なんだけど。そしたらこんなに焦げないし、上手くできるんだけど。
朝っぱらからフライパン使いたくないじゃん?
めんどくさいじゃん?
ね? スフィー?」
めんどくさそうに肩をすくめながら
相棒のスフィーに話しかける……のだが……
「────って。スフィー店だった……。
超独り言だった……」
ゲンナリとつぶやくミリー。
スフィーがいても『超独り言』である。
彼女は基本、いつでもスフィーと一緒だった。
しかしたまに忘れてしまうこともある。
別に少女人形趣味というわけではないが、なんとなくバッグに入るサイズのカノジョを『連れて行ってあげている』感覚で連れ回し、話しかけていた。
従って、スフィーを忘れた日は、こうしてむなしい独り言を虚空に散らかすことになる。彼女の記憶が確かならば、昨日ビスティーに置いてそのままだ。
一人暮らしも5年。
ビスティでの仕事も、客がくる時はくるが来ない時は来ない。
年と共に増えていく独り言。
そして、得意になっていく『一人芝居』。
スフィーに語り掛ける率も上がる。
しかしそれも、彼女はあまり気にならなかった。
彼女はもとより、空想に浸るのが好きなのである。
(────さって、と!)