4-7「食用になってからおいで!」(1P)
それは、よく晴れた8月の初頭。
エルヴィス盟主が聖堂を訪れた日から数日たった、ある日の朝。
ボルドー通り50067
アパートメント「ティキンコロニ」301号室。
一人暮らしの1LDK。労働者向け賃貸住宅だ。
その一室で
ぬくぬくとベッドの中で寝返りを打つ女性が一人。
彼女の名前はミリア・リリ・マキシマム。
本作の女性代表である。
「──────っ…………」
吸い込む息。
ベッドルームに差し込む光。
部屋の隅に置かれた机。
埃をかぶった分厚い魔術書。
古ぼけた姿見と、”かけるだけクローゼット”に掛かったシルクメイル産のドレスワンピ。
出窓を覆うカーテンの隙間から、差し込む光の帯の中、ふわりふわりと毛埃が舞う。
「んん……」
瞼の向こうの光を受けて、ミリアは眩しそうに顔を歪めてブランケットを被った。
寝返りを打つたびに軋む、安っぽいベッドが”ギッ”と音を立てるが、耳には入らない。
8月の朝。
穏やかな時間。
朝の光が差し込む部屋に
────すぅ────っ……と深く
吸い込んだ寝息のような音が響く。
ちゅんちゅん、ぴちちっ……!
外からするのは鳥の声。
どこかから匂ってくるトーストしたパンの匂い。
「…………うん」
ベッドの中で相槌を一つ。
瞳を閉じて、ころんと枕に頭を預け
ちゅん……、ぴちちちっ
「……………………うん」
鳥に小さくお返事。
ちゅんっ、……ちゅん。
「──────ん。」