4-6「パラ見でオール却下(3)」
「────なあ。
……あ れ。
…………なんとかならないのか」
内心。
心底うんざりと言うエルヴィスに
「ありえないとは言っているわ。
……けれど、おさまらないのよ」
痛烈な顔をするキャロライン。
そう。最近はこれも、二人の頭を悩ませていた。
確かに『美男美女』。
側から見たら『お似合い』ではあるのだが、互いにその気は全くない。
キャロラインとリチャードのペアの場合このような言葉は聞かれないのだが、相手がエルヴィスになった途端、なぜかこうなるのである。
しかしエルヴィスにとって
キャロラインは『かつての級友でありビジネスパートナー』だし。
キャロラインにとっては『忌憚なく意見をくれる盟主』だ。
お互いに
『恋してるのかしら? 愛し合っていらっしゃるのよきゃっきゃ』と言われることすら鬱陶しい。
──のだが。
──────はあ…………
鬱陶しい取り巻きを視界の隅から消し去り
エルヴィスは、今日何度目かのため息を落とした。
うんざりと目を向けるのは『キャロラインに』である。
「……皇女と噂になるこっちの身にもなってほしいんだけど?」
心の底から『勘弁しろ』という意味を込める。
そんなエルヴィスの射るような視線を受けて
キャロラインもうんざりと息を吐き出すと、
「………どちらかが結婚するしかないのかしら。
相手を見つければ、周りも騒がないでしょう」
「────なら、あなたに期待していますよ?
キャロライン・フォンティーヌ・リクリシア皇女?
私めには当分、その気もありませんので。」
「…………っ!」
その
『 そ っ ち が 先 に 行 け 』
という圧と棘が詰まりまくったエルヴィスの声に
キャロラインは紅玉の瞳の一瞥を送り、
「……貴方。お相手は?」
「居ない」
「貴方に好かれたい令嬢もたくさんいると聞くわ?」
「だろうな」
「随分、舞踏会やってないわよね?」
「……ああ、やりますやります」
「…………綺麗な子も多く招くのでしょう?」
「そうですね?」
「いい出会いあるかもしれないわね?」
「そうですね、
────ああ。
皇 女 様 も
パ ー テ ィ ー を 開 か れ て は?
『男性ならいくらでも』来ますよ?
皇 女 様 ?」
「…………っ!」
「………………」
ちゅんっ……ぴちちっ……
ぴちちちちちっ……………………
王家の中庭。
夏に咲き誇る花々が見守る中。
もはや会話も生まれぬ二人の沈黙を、小鳥のさえずりがカバーして────……
(……盟主としては評価するけれど。
この男と結婚しようなんて、絶対に思えないわ……!
女神のような人じゃないと無理よ!)
(…………結婚、ね…………
────俺には、縁遠い話だ)
(…………おお、コワァ…………
……ほんっと仲悪いよなぁ……
これでよく戦争にならないもんだぜ……)
テーブルを囲む皇女と盟主。
草葉の陰で身をすくめる王子。
各自各々、それぞれに、憮然と呟いて。
はぁ──────……
深い深い ため息をついたのであった。
それは、よく晴れた8月の初頭。
エルヴィス盟主が聖堂を訪れた日から数日経った、ある日の朝。
「…………ん……………………」
ぬくぬくとベッドの中で寝返りを打つ女性が一人。
彼女の名前はミリア・リリ・マキシマム。自室のベッドの中、まどろみを味わう彼女は、まだ知らない。
この日を境に、自身が地獄を見ることを。
#エルミリ