4-5「それは小さな綻びのような」(5P)
(────……ああ……
また、”ミリア”だ。
……まあ、彼女はそう言ってきそうだけど)
脳内ミリアに抵抗するように、眉間を伸ばすエルヴィスの隣。
黙りこくって様子を見続けているキャロラインの目は、涼やかに(……また、男って)オーラを出しつつ、書類を眺めている。
そんなキャロルを尻目に
エルヴィスはその暗く青い瞳でリチャードを射抜くと、強めのオーラを発し、
「────で。君の依頼の件だけど。
とりあえずまだ全容すら把握できていないから、少し時間をくれないか?」
「ど〜れぐらいで調べがつきそうだ〜?
あんまり遅いと、うちも困るんだよ。
ラグマット業が悲鳴あげちまう」
「………さあ。どうだろうな?
一応、冬までにはケリをつけるつもりで動いては居るけど
…………なにしろ、数が数だからな……
ウエストエッジだけで、どれだけ服飾関係の店や問屋があると思ってるんだよ。
……見当をつけるだけでも、一苦労だ」
「期待してるぞっ、エルヴィス!」
「…………報酬は弾んでもらうからな?」
「おう、任せろ?
アルツェン・ビルドの国庫を動かしてやるよ☆」
(…………国庫は動かすなよ)
聖堂のガーデンテラス。
陽気に軽く言うリチャードに、エルヴィスはそっと資料を手に取った。
山のような『言いたいこと』を我慢して。
そっと息をつき、
ちらりと確認するのは太陽の位置。
(────議題はここまでだろ)
と胸の内で呟いて
三国連合会議も、そろそろ閉幕かと
エルヴィスのスイッチがオフになりかけた──その時。
黙り込んでいたキャロラインがおもむろに顔を上げる。
「聞いてほしいのだけど。
私、今度ドニスに行くことになったわ
『────ドニス?』
振られた話題。
キャロライン皇女の口から出た名前に、エルヴィスとリチャードは、オウム返しに問い返したのであった。