4-5「それは小さな綻びのような」(2P)
「エルヴィスといえば『聖騎士長!』って感じで近寄りがたいんだが……
今日は違う気がしたんだけどなあ〜」
「そうかしら?
私には彼の様子が変わったようには思えないけれど。……実際、若いシスターも怖がっていたわ」
「それは……、悪かったな?
元々こういう顔だよ。
特に凄んでもいない」
「貴方、容姿はいいものね。
迫力があるのではないかしら?」
「…………それはどうも」
キャロライン皇女の『事実を述べた言葉』に、エルヴィスは澄し調子を崩さず相槌だけを打った。
『かっこいい』とか
『綺麗』とか
容姿をほめられ
普通なら照れたり謙遜するはずのところを
黒髪くせ毛の盟主は『些細な事』といわんばかりに息を吐き、言葉を続ける。
「まあ、外面は、な。
ここでも、笑顔は作っていると思うけど?」
「『迫力しかないヤツ』、な~」
「そんなことないだろ」
「…………若い侍女には怖がられているわ。
もっと柔らかくしたほうがいいわよ」
「…………ああ、悪かった。
キャロライン、君に言われたくはないけど」
「────なにかしら?」
「…………」
(おー、こわあ。)
キャロライン皇女とエルヴィス盟主のあいだ、瞬間的にピリッと張り付く空気。
しかしそれを
(構っていられない)と言わんばかりに素早く切り替えて
エルヴィスは若干鬱陶しそうにあしらいつつ、何気なく資料を捲り────
────ふと、そこでぴたりと手を止めた。
なぜか思い出してしまったのだ。
スネークの言葉。
……いや、”ミリアの言葉”を。
『彼女はあなたのことを大層褒めていましてね
いい笑顔をされていました。
”かっこいい”・”面白い”・”一緒にいて楽しい”と』
今受けたものとは、まるで反対の
『彼女(フィルター越し)の言葉』。
(────”かっこいい”は、まあ……
わかるとして
……”楽しい”……、”面白い”……か)
『スネークフィルター』を通して伝えられた、もはや出まかせのような褒め言葉を、無意識に反芻する。
盟主貴族の彼の人生、今まで『格好良い』という言葉は多く受けてきた。
しかし、『面白い』は、今まであっただろうか?
『楽しい』は、どうだろうか?
今も
キャロラインに『怖い』と言われたばかりだが
彼女は自分を『楽しい人だ』と言う────
エルヴィスの頭の中
自分の前では決してその素振りを見せないミリアが、スネークの前で
『あのおにーさんと一緒にいるの楽しいです!』
『面白いんですよ~!』
と、にこやかに言う顔が頭をよぎり、
”一瞬”。