4-4「ちらりちらつく、”らしくない”」(2P)
「────ああ〜、そうそう。
マジェラと言えばだな、エルヴィス、キャロル」
いきなり現実に引き戻されたエルヴィスが、
(今度はなんだ?)といわんばかりに砂糖入りの珈琲を口に含む中
金髪の王子リチャードはパチンと指を鳴らし、側近の執事にそれを促すと、差し出された黒い箱を受け取り二人に述べた。
「この前『これ』もらったんだよ」
「…………小さな……本?」
言いながらテーブルにそれを滑らせるリチャードに、エルヴィスは深く腰掛けた姿勢そのまま問い返す。
現れたのは、手のひらサイズの黒い平箱。
箱なのか小さな本なのか、ぱっと見ただけでは判断が難しい装丁。
黒く厚みのある表面。
銀の箔押しで描かれた模様。
その姿かたちから、にじみ出る高級感。
まるで────
価値のある書物でも入っているかのような装いに、エルヴィスの興味は自然と注がれる。
『高級そうな平箱』に押された銀の紋様が
エルヴィスの興味を駆り立て、彼は口を開いていた。
「…………それ、魔法陣だな」
「やっぱりそーか。
さっすが、魔具スペシャリスト!」
「……まあ。
魔具には大体、この刻印があるから。
見ればわかる」
リチャードの言葉に、『当然だ』といわんばかりに言い返す彼。
魔具には、どんなものにも刻印がある。
円と直線で描かれた紋様を、マジェラの商人は『魔法陣です』と説明してくれたのは随分昔の話だ。
魔具取り引きの中で
そこを問いただすものはあまりいなかったようだが
彼は『エルヴィス・ディン・オリオン』。
細かいことでも気になったら質問する性分なのである。
エルヴィスは流れるように黒い平箱を掴むと、繁々と見つめはじめた。
その目つき
まるで検閲。
まずは、外箱から。
固く厚めの表紙蓋、予想を裏切らないしっかりとした作り。見事な装丁に、彼の口から言葉が漏れる。




